今回は、EtherCATの仕組みを信号レベルでご説明します。「ご主人様(EtherCATマスタ)」と「メイド(EtherCATスレーブ)たち」が、何をどのようにやり取りをしているのかを見てみると、「メイドたち」が某有名マンガのスナイパーも腰を抜かすほどの“射撃技術”を持っていることが分かります。後半では、SOEM(Simple Open EtherCAT Master)を使ったEtherCATマスタの作り方と、簡単なEtherCATの動作チェックの方法を紹介しましょう。
FA(ファクトリオートメーション)を支える「EtherCAT」。この超高度なネットワークを、無謀にも個人の“ホームセキュリティシステム”向けに応用するプロジェクトに挑みます……!! ⇒「江端さんのDIY奮闘記 EtherCATでホームセキュリティシステムを作る」 連載一覧
私が大学生の頃、パーソナルコンピューター、通称「パソコン」を、使いこなすことができる者は、ほんの一部の人だけでした。現実に、その当時の9割のパソコンは、新品のまま、押し入れの中で眠っていたそうです。
パソコンを使いこなす者たちは、社会から隔離され、自室や研究室のスミに追いやられ、パソコン通信を行う者に至っては、「オタク」の称号を付され、「ネクラ」と決めつけられ、さらには、(少女殺害事件などと結び付けられて)潜在性犯罪者とまでうわさされる ―― そういう陰湿な時代でした。
その一方で、パソコンを使うだけでは足りず、パソコンのハードウェアの改造に乗りだすという豪の者もいました*)。
その者は、パソコンの筐体を開き、電子回路が登載されているマザーボードに得体のしれない部品を差し込み、そこからケーブルの束を引き出して、自作のロボットや家電製品に繋ぎ、さらには、電話とモデムを使って、それらを遠隔からコントロールしようとしていました。
私です。
*)正確に言うと、そういう凄いスキルをもった友人が、当時の私にはいたのです。
こんにちは。江端智一です。
大学生の頃、私がやろうとしていたことは、コンピュータとネットワークによるモノの制御、今でいう、IoT(Internet of Things)の走りだったと思います。
最近、「IoT」が騒がれていますが、そもそも、コンピュータによるモノの制御なんて、別段新しいものではありません。新幹線、信号機、発電所、配電、配水、その他の社会インフラシステムのほとんどは、半世紀も前からコンピュータ(メインフレーム)が動かしてきました。
今、(というか、今さら)「IoT」が騒がれる理由は、「モノ」が、「インターネット」という誰でも使えるネットワークにつながるという点にあります。
IoTには、「オープン」というメリットがあります。
第一に、同一の通信方式やオブジェクトモデルを使うので、安価に、装置やシステムが作ることが可能となります。
第二に、制御情報の公開や共有も可能となります。
例えば、信号機がインターネットに接続されて、信号が青になるタイミングをカーナビなどであらかじめ知ることができたら、「一度も信号に止められずに運転する」というナビゲーションが(理屈としては)可能となります。
一方、IoTには「セキュリティ」という問題もあります。
(万に一つもないと思いますが)原子力発電所のシステムがインターネットにつながったとしたら、あっという間にテロリストの攻撃によって、システムダウン(最悪の場合、メルトダウン)に追い込まれることでしょう。
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