作製した超格子構造の物性を確認したところ、チタン酸化物薄膜に挟まれたイリジウム酸化物薄膜の枚数(m)が1または2と少ない超格子構造においては、極めて小さい磁化を持つ絶縁体であることが分かった。また、磁化が発生すると電気抵抗率が上昇することも判明した。枚数が少ない超格子構造においては、電子相関の寄与が大きいとみている。さらに、大型放射光施設「SPring-8」および「フォトンファクトリー」の放射光を用いてm=1のスピン構造を決定したところ、磁性が電子相関だけでなく、スピン‐軌道相互作用の影響を強く受けていることも分かった。
イリジウム酸化物薄膜の枚数が増えると、超格子構造はより金属的になると同時に磁性が不安定になることも分かった。m=4またはm=∞(チタン酸化物薄膜を挟まないイリジウム酸化物のみの薄膜)では、磁性が消失するとともに、電子とホールがともに伝導に寄与する「半金属」となった。中間のm=3では絶縁体と半金属の境目に位置し、ほぼ磁性が消失することが分かった。
共同研究グループは、原子レベルの超格子薄膜技術を用いることでイリジウム酸化物薄膜の電子相を自在に制御することに成功した。これによって、磁性の出現と絶縁体化の密接な関係を解明するとともに、電子相関とスピン‐軌道相互作用が共存するイリジウム酸化物の特長を系統的に明らかにすることが可能となった。
今回の研究成果によって、これまで理論的に予測されながらも発見されていない「電子相関の効いたトポロジカル絶縁体」を、イリジウム酸化物で実現可能なことが分かったことから、低消費電力デバイスなどへの応用が進むものと期待されている。
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