では、位相雑音はどうすれば、低減できるのか。1つは回路設計だ。発振器回路を構成する電子回路の最適な電流設計や電源雑音の削減など回路上の雑音成分を極力、排除することで電子回路としての低雑音化が実現できる。そしてもう1つが、キーデバイスである水晶振動子の高Q化による低雑音化だ。
水晶発振子で位相雑音を低減するには、目的の周波数でのQ値(共振のピークの鋭さを示す値)を高くすることが必要だ。Q値を高められれば、目的の周波数の位相雑音を低減できるからだ。
日本電波工業は、高Qが求められる宇宙開発用水晶振動子の製造で培った技術をベースに、高Qの人工水晶を製造。さらに、高Qを得られる水晶の外形寸法やカット方法を割り出し水晶振動子に適用した。そうした結果、人工衛星に搭載される水晶振動子に匹敵する高Qの水晶振動子を作り出した。
この高Q水晶振動子は、同社がハイレゾ対応のスマートフォンやモバイル機器向け提供している低位相雑音の小型発振器「SPXOシリーズ」に比べて、クロック周波数近傍領域の位相雑音特性を−35dBも改善させることに成功した。
ただ、課題も残った。人工衛星用クラスの水晶振動子ながら、クロック周波数から離れたフロア雑音に関しては、スマートフォン向けのSPXOと同等だったのだ。フロア領域の雑音は、小さいながらクロック周波数のズレ、ジッタの原因に他ならず、同社は、フロア領域の雑音の低減を試みることになった。
フロア雑音の低減するための手法として、人工衛星用クラスの水晶振動子の後段に、水晶フィルタを挿入した。水晶フィルタでフロア雑音を取り除こうという意図だ。
ただ、従来の水晶フィルタは、公称周波数49MHzで通過帯域は約±1.7kHz。100Hz〜数百kHzという可聴域での通過帯域が広すぎて、フロア領域全体での雑音低減が期待できない。
そうした中で、同社は雑音を取るためには、従来よりも1/20以下の狭帯域の水晶フィルタの適用で雑音低減を行うことにした。しかし、新たな問題も浮上した。
水晶フィルタの通過特性を狭帯域化した場合、水晶振動子自体の温度特性により中心周波数が変化してしまい、フィルタ通過後の信号レベルが使用する環境温度で−15dB以上低下してしまうためだ。
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