その解決策として、採用したのが2つの水晶振動子を、全く同じように温度制御する手法だ。振動子、フィルタともに開発した人工衛星用クラスの高Q水晶振動子を使用。この2つの振動子を同一温度制御することで、たとえ、温度変化でクロック周波数がシフトしても、フィルタの狭い通過帯域も同じようにシフトし、信号レベルを安定に保つことに成功した。
さらに低周波変動雑音を招く温度変動を減らすために、抵抗溶接封止パッケージのOCXO(恒温槽付き発振器)の外側に、樹脂ケースを設けた二重構造パッケージにした。
こうした工夫を施した結果、フロア領域の低雑音化に優位なSine波出力を用いた発振器で、近傍ノイズで−165dBc/Hz(1kHz時、典型値)、フロアノイズで測定限界となる−175dBc/Hz(10kHz時)を達成。さらに一般的なHCMOS出力版でも、SPXOに比べフロアノイズ−6dBc/Hzを実現した。
日本電波工業では、この開発した超低位相雑音特性のOCXOを、“DuCULoN”と命名。ハイレゾ対応のハイエンドデジタルオーディオ機器のマスタークロック用発振器として発売した。ちなみにDuCULoNは「Dual Crystal Ultra Low Noise」の頭文字を組み合わせた造語だ。
同社執行役員の赤池和男氏は「ハイレゾ音源の登場で、これまで人工衛星や計測器などに向けて提供してきた低雑音技術をオーディオ向けにも生かしてほしいとの要望が寄せられるようになった。そこで、音質を重視するスマートフォンやモバイル機器向けに低雑音小型発振器としてSPXOシリーズを開発販売したところ、“SPXO”が高品質な音にこだわるデジタル機器の特長の1つにも挙げられるほど、オーディオメーカーをはじめとし、数多くのメーカーから高い評価を得ることができた。そして、その延長で、オーディオ愛好家の皆さんから、“価格は二の次として、オーディオ用に低雑音特性を追求した発振器をぜひ作ってほしい”との要望を受けてDuCULoNを開発した」と経緯を語る。
その言葉通り、DuCULoNは、ハイエンドオーディオのための水晶発振器として、見た目もそれにふさわしい高級感を持たせるなど細部までこだわり抜いた。その結果、価格は1個15万円だ。オーディオ本体とも思えるような価格とは裏腹に、高音質を実現できる唯一無二のオーディオマスタークロックとして、2015年6月の製品発表以来、想定以上の引き合いを得ているという。
サンプル品の出荷は既に開始され、量産は2015年12月を予定している。
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