今回は、半導体業界とその周辺にこの10年で最も大きな変化をもたらした要因である「チップセット」を取り上げる。チップセットの勃興を振り返りつつ、国内半導体メーカーがなぜチップセット化の流れに乗り遅れたのか、私見を述べたい。
この10年、半導体業界で最も変化したことはチップセットの支配力が高まったことだ。チップセットという半導体の在り方はキットと呼ばれだりターンキーやソリューションと呼ばれたりすることもある。チップセットを手に入れれば、誰でも完成品が作れるという。いわばカット野菜に調味料がセットされた「なべセット」のようなものだ。
10年前、Qualcommは一介のベースバンドLSIメーカーに過ぎなかった。MediaTekもDVD用LSIなどで頭角を現していたが、ローカルプレーヤーの1つに過ぎなかった。彼らは高度な性能を求めるよりも(当然、高性能も追及していたが)、一貫して半完成を提供することに力点を置いていた。
MediaTekはチップセット(ベースバンド+RFトランシーバーLSI、オーディオ用IC、Bluetooth用IC)を取りそろえ、そこにソフトウェアやアプリケーションを搭載した。これら4点のチップセットがあれば、誰にでも携帯電話機を作ることができたのだ。
まさにチップセットがキー(鍵)となって市場参入の扉を開けることから「ターンキー」として中国やアジアで猛威を振るい、急成長した。
一方Qualcommも、ほぼ同時期に「プラットフォーム」と称しチップセットを充実させていく。「Snapdragon」は、Qualcommのチップセットの本格拡充の象徴であった。初代から最新世代までSnapdragonは、それだけでスマートフォンを作ることができる「半完成品」を提供し続けた。図1にQualcommのプラットフォーム、図2にMediaTekのチップセットを掲載する。
しかし同じ時期、日本をはじめとした多くの老舗半導体メーカーはチップセットを完成させることができなかった。これがスマートフォンなど新気流に乗り切れず、敗退につながっていく原因の1つになったことは間違いない。
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