経営危機を脱し、成長フェーズへと移ろうとしているルネサス エレクトロニクスの社長兼CEOに就任した呉文精氏。「ワールドカップ優勝、世界市場で勝つ」とグローバルな半導体メーカーとしての成功を目標に掲げる同氏にインタビューした。
2016年6月28日にルネサス エレクトロニクスの社長兼CEOに呉文精氏が就任した。日本興業銀行(現みずほ銀行)、GEキャピタル・ジャパンと金融業界出身でありながら、カルソニックカンセイCEO、日本電産副社長と製造業の経営も経験してきた呉氏に、経営危機から脱し、成長へのギアチェンジが迫られているルネサスのかじ取りが託された。
呉氏自身も、就任会見で「ワールドカップ優勝、世界市場で勝つ」とグローバルな半導体メーカーとしての成功を目標に掲げ、成長への意気込みを示した。どのように、世界を相手に、ルネサスは勝ち抜き、成長していくのか。呉氏に聞いた。
――ルネサスは2013年10月以来、「変革プラン」に取り組んで来たわけだが、呉新CEOはこれまでの変革プランをどうのように捉えているのか。
呉CEO 一歩間違えれば、破綻するという状況で、変革プランは必要だった。固定費を下げる、非採算/非注力、競争力のない分野を足早に削減するということで正しかった。私が(当時、経営を)やっていたら、恐らく、あの速いペースでは(固定費削減/非注力製品撤退を)実現できていなかっただろう。あのペースで、品質問題も供給問題も起こさずに、新しいデザインイン、顧客との共同開発案件を獲得したことは、素晴らしいと思っている。
ただ、ここから先は、成長に向かわなければならないので、これまでのように“絶対に負けない”という戦い方では、勝てない。そこを変えていく。
――今後、売り上げ拡大の方向に進む。
呉CEO 売上高を大きくすること自体が目標ではない。ある程度で売り上げを抑えるというわけでもないが。
例えば、車載半導体の最先端領域では、かなりの開発費が必要になる。その開発費を捻出するには売り上げ規模も必要になる。そのため、どの分野に取り組むかによって、目指す売り上げ規模は異なってくる。
営業利益率15%という数値は中期目標として持ち続ける。
具体的な売り上げ目標は、注力分野/戦略セグメントを決めた上で、今秋に中期計画として公表したい。
――注力分野、戦略的セグメントの選定状況は?
呉CEO 6〜7割程度は決まっている。しかし問題は、各注力分野に、どれだけの力で注力するのかということになる。将来の売り上げ見込みも精査しなければならない。IoTやインダストリ4.0など全く新しい分野は、2年後にどの程度の市場規模になっているのか、非常に予測が難しい。
一方で、チップの開発費は、「チップ1個当たり○○円」という単純なものではない。チップに搭載する機能に対し、○○円というコストが掛かる。
どの程度の注力、開発費を掛けて、どれぐらい売上高、収益性が見込めるかを考えていかなければならない。ただ、開発費を掛けながら収益性を確保するとなると、限られた領域では、なかなか難しい。そこで、先進的な機能をコストを掛けて開発して、それを新興国のミドルマーケットのボリュームゾーンにどう持っていくという次の世代までを考慮して、開発費に見合う収益性を得られるか見極める必要もある。そうしたこともあり、今秋まで時間を掛けて、注力具合まで含め注力分野を選んでいく。
正直なことを言うと、(これまでの会社と異なり)ルネサスでは「この先端技術を開発すると、成り行きでこういう製品ができ、これぐらい売れるんじゃないか」という答えが返ってきた。これでは、あまりにも、経営としてはコントロールできない。
「こういうものを開発すれば、必ずこういう結果につなげる」「次世代のミドルマーケットで求められるスペックはこういうものだから、先端技術を作る時からそのスペックを念頭に作れば、○○年後にこれだけの収益が得られる」というような議論を重ねたい。その上で「これぐらいの開発費を掛けられる」「将来、大きな収益性は見込めるけど、相当な開発費が直近で必要になってしまうので、当社の今の体力では難しい」という判断をしていかなければならない。今はその議論の真っただ中で、中期的な売り上げ目標なども、そうした議論が終わってから公表できる。
――戦略セグメントを決める上で、再び、撤退などの決定をする製品分野はあるのか。
呉CEO 撤退する製品は、ほとんどない。既に不採算の製品から撤退し、売り上げをさげてきた状況にある。現在、決めている戦略は、成長すると残した製品でも、思い通り伸びていない製品もあり、そうした製品をどうやって伸ばすかというもの。大きな固まりで、やめる必要のあるものはない。
市場の成長性、差別化できるかと、競争力があるかどうかという点と、エンジニアにリソースを投入して勝てるかどうかで、戦略セグメントを決めていく。
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