日本における5G検討に最も早くから力を入れて取り組んでいるのはNTTドコモ(以下、ドコモ)だ。2014年5月には、世界の主要ネットワークベンダー6社と5Gの共同実験および技術開発に向けて合意したことを発表している。この取り組みはその後もさらに拡大し、現在ドコモとの協力を表明している会社は13社にのぼっている(図3)。
研究の対象となる周波数は、既存周波数からセンチ波そしてミリ波にまでわたり、技術要素としても広帯域ビームフォーミングやMassive MIMO、基地局間協調スケジューリングと多岐にわたる。そして、ネットワークベンダーだけでなく、チップセットベンダーや測定器ベンダーも加わり、まさに全方位的な共同実験および技術開発を進めている。
ノキアは当初、ミリ波帯に相当する70GHz帯での共同実証実験の実施に合意し、その後さらに6GHz以下の周波数における実験にも合意している。公表されている内容によると、複数の周波数帯における共同実証に合意しているのはノキアが唯一のベンダーである。ミリ波を用いた実証実験は2015年から屋内外を含むさまざまな場所で実施した。
屋外の実証においては、横浜地区において実験を行い、70GHz帯という非常に高い周波数ながらも、200mほど離れた距離において高速通信が実現できることを実証した。また、2015年10月には東京都内にある六本木ヒルズ森タワーの商業施設内での実験も実施した(図4)。
ノキアのミリ波実験用基地局は、レンズアンテナと呼ばれるアンテナ素子によって非常にシャープなビームを作り出し、そのビームの方向を適切に制御する機能が備わっている。この技術は、将来的にはMassive MIMOと呼ばれる5Gシステムでは必須となる技術への応用が可能である。六本木ヒルズでの実験においては、このビーム制御技術により、見通し外の環境であっても反射波を使いながら良好な通信品質が得られることが検証できた。これらの実験による成果はドコモとの共著による論文として公表されている。
ドコモは、国内最大級のワイヤレス技術関連の展示会「ワイヤレス・テクノロジー・パーク(WTP)2016」(2016年5月25〜27日、東京ビッグサイト)において「5G Tokyo Bay Summit」を主催し、協力ベンダーとのデモ展示を実施している。本イベントにおいてはドコモとノキアが共同で実施した世界初となる8K映像のリアルタイム5G無線伝送実験の実機デモンストレーションが行われた。これに加え、ノキアの次世代無線基地局「AirScale」を用いたセンチ波における5Gデモ展示も実施した(図5)。
もちろん、国内において5Gに向けた検討を進めている通信事業者はドコモだけではない。KDDIも5G技術開発に向けて通信機器ベンダーとの協力を加速しており、2015年から2016年にかけてエリクソン、サムスン電子、ノキアといったベンダーが5G共同開発に関してKDDIと合意したことを公表している。また、KDDI傘下のKDDI研究所も5Gに向けた技術開発に熱心に取り組んでいて、5G時代の新しい通信プロトコルとして60GHz帯通信とLTEを協調動作させる通信方式を開発したことを発表している。
一方、ソフトバンクにおける取り組みとして特徴的なのは、まったく新しい技術としての次世代通信規格の検討だけでなく、TD-LTEと高い互換性を持つ通信規格「AXGP」のさらなる進化にも重点を置いている点だ。2015年7月に発表された記事によると、ファーウェイ、ZTEらとともに次世代高速通信のグローバルスタンダードとなる技術の開発を目的に、Massive MIMOなどの高度化技術の実証実験や技術評価を実施することに合意している。また、これと同時期にエリクソンは、5G技術の共同フィールド試験を、ソフトバンクと東京で実施することを発表した。
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