以上のような通信事業者による取り組みに加え、5Gシステムの早期実現を目指し、国内では第5世代モバイル推進フォーラム(5GMF)も立ち上がった。現在は国内外70を超える数の企業が本フォーラムの会員となっている。5GMFのスコープは単にネットワーク技術の検討を推進するだけでなく、ユーザーニーズの調査によりアプリケーションやサービスの検討を実施することも含んでおり、2017年度中に総合実証試験を開始する計画であることが公表されている。
5GMFは、欧州の5Gインフラストラクチャ協会(5G PPPの民間部門を代表する組織)や韓国の5G Forumといった海外の主要な5G推進団体とのパートナーシップ構築にも力を入れており、世界の動向を見据えた検討が進められている。2016年5月には220ページに上る白書「5G Mobile Communications Systems for 2020 and beyond」の第1.0版を発行した。さらに、日本政府も今後はより強力に5G開発を後押しするという見方もある。一部報道によると、総務省は2017年度予算の概算要求に関連費用を盛り込む方針とされており、5Gを活用したサービスの開発に乗り出すとみられている。
ここで、5Gが出現することによってどのようなサービスが出てくるかを考えてみたい。冒頭でも述べたが、5Gにおいては、高速大容量通信に加え、非常に低遅延な通信が可能になる。この低遅延な特性によってこれまでになかった全く新しいアプリケーションが生まれる可能性がある。
そうした応用領域として期待されるものの1つに自動運転技術が挙げられる。経済産業省と国土交通省は、2015年2月に「自動走行ビジネス検討会」を設置し、自動走行において必要な取組に関する検討を行ってきた。2016年3月にまとめられた報告書「今後の取組み方針」によると、早ければ2018年にはNHTSA(米運輸省道路交通安全局)が定義するところの「レベル2*)」の自動走行を実現し、2020年には専用駐車場における自動バレーパーキングを実現するとある。
*)加速・操舵・制動のうち複数の操作をシステムが行う状態として定義されている。
今後こういった運転の自動化技術に5Gの低遅延特性が活用される可能性は大いに考えられる。特にバレーパーキングといった用途においては、5Gを用いてネットワーク側から無線で車を直接制御するといった実現方法も可能かもしれない。
もう1つ、今後普及が進むとみられるアプリケーションとしてVR(Virtual Reality:仮想現実)が挙げられる。KDDIが2016年5月に、VRビューワーのメーカーであるハコスコにKDDI Open Innovation Fundを通じて出資したことからも、通信事業者のVRに対する関心の高さが伺える。
VRは複数の高精細カメラの映像をつなぎ合わせて1つのコンテンツを作る必要があるため、大容量通信が必須である。またスポーツ中継のようなリアルタイム性を求められる用途においては、低遅延性も欠かせない。まさにこういったアプリケーションを可能にしていくのが5Gといえる。
2016年5月、世界最大級のスタートアップイベントとして知られるSlush(スラッシュ)のアジア版、「Slush Asia」が日本で実施されたが、このイベントの中でもVR技術を手掛ける企業が数多く出展した。ノキアも同イベントにおいて自社で開発したプロフェッショナル向けのVRカメラ「OZO」を展示した。実際にこのカメラで作成したコンテンツを来場者にヘッドマウントディスプレイで体験してもらい、その没入感の高さに多くの反響を得た(図6)。東京オリンピックに向けて、ネットワークの進化とともに現れるであろう、新たなアプリケーションや体験への期待がますます高まっている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.