半導体業界の研究開発費、M&Aで減少傾向に?:成熟期に入ったからなのか(3/3 ページ)
研究開発費の削減によって営業利益を改善することを目的とした買収は、短い期間にゲームをしているようなものなのかもしれない。研究開発費を削減できたとしても、買収された側の企業の売上高は、しばらくの間引き続き発生していくため、買収した側の企業の営業利益は向上することになる。しかし、このように研究開発費を削減すると、投資不足のために将来的に売上高が減少し、競合企業や新興企業に市場参入の隙を与えることになりかねない。
買収によって、将来的に売上高に影響を与えることなく研究開発費が減少するのだろうか(クリックで拡大)
もし、半導体業界が本当に、売上高成長に限りがある成熟期に入ったとしたらどうだろうか。ムーアの法則を延長していくには、高いコストと挑戦力が必要だが、経済的には研究開発費の削減が求められる。
一体どれくらいの費用を削減する必要があるのだろうか。ここで、30年以上前の半導体業界についてみてみよう。
不安定な半導体業界だが、売上高における研究開発費の投資割合は、過去32年間にわたり14%前後で安定している(クリックで拡大)
売上高全体に占める研究開発費の割合は、13〜14%と極めて安定していることが分かる。現在の合併買収の嵐によって、このような安定した長期的傾向が突如として変化することもあり得る。
また、この他の可能性としては、半導体業界が現在、これまで通り重要な成長の波間に置かれているとも考えられる。近年の半導体業界の成長の波は、ほとんどがワイヤレス機器によってけん引されてきた。さらなる新たな波を引き起こすには、IoT(モノのインターネット)のような新しい分野の出現が待ち望まれる。
半導体業界は歴史的に見ても、機能当たりのコスト改善や新しい性能によって実現したアプリケーションによって、成長がけん引されてきた。近年、トランジスタ当たりのコストは、過去60年間のほとんどの年と比べて、1年間当たり平均で30%以上減少している。このような傾向が今後も続けば、将来的に新たな半導体アプリケーションの波が押し寄せることになるだろう。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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