2016年7月、村田製作所はソニーの業務用電池事業を買収すると発表した。コンデンサーを中心とした電子部品メーカーである村田製作所が、苦戦続きのリチウムイオン電池事業を立て直すことができるか懐疑的な見方も多い。なぜ、村田製作所は電池事業を買収するのか、そして、勝算はあるのか――。同社取締役の中島規巨氏に聞く。
※インタビュー前編「今後3〜5年もスマホ向けが好業績を支える」はこちらから
「スマートフォン依存度が高いことは問題だとは決して思わないが、スマートフォン以外の注力用途でのプレゼンスが上がっていないことが問題だ」
こう語るのは、村田製作所取締役常務執行役員の中島規巨氏だ。スマートフォン向けの電子部品/通信モジュールで業績を伸ばす村田製作所は今、スマートフォン向けビジネスに続く成長領域での事業強化を進めている。成長領域とは、自動車、医療、そしてエネルギーだ。
2016年7月には、エネルギー事業の強化の一環として、ソニーの業務用電池事業を2017年3月末をメドに買収すると発表した。1991年に世界に先駆けてリチウムイオン電池を商品化するなど、歴史、実績のあるソニーの電池事業だが、近年は赤字に苦しんできた。競争の激しい世界電池市場で、電子部品メーカーの村田製作所が、苦戦続きの電池事業をよみがえらせることができるのだろうか。
通信・センサー事業とともに、電池を含むエネルギー事業を統括する中島氏に、ソニー電池事業買収の狙いを中心に、スマートフォン以外の成長事業に関する事業戦略を聞いた。
EE Times Japan(以下、EETJ) 「スマートフォン以外の注力用途でのプレゼンスが上がっていないことが問題」ということですが、スマートフォン以外の注力事業の状況を教えてください。まず、車向けビジネスの状況、今後の展開予定をお聞かせください。
中島規巨氏 車はインフォテインメント向けのWi-Fiモジュールはかなりシェアが高い。ここでシェアを獲得できているのは、スマホでの実績からスマホとつながるモジュールとして認められている部分と、車載向けは全て国内生産しているという信頼面でシェアが獲得できていると思う。加えて、パートナー企業であるユビキタスとともにMiracast用ソフトウェアを提供している点も、採用を伸ばしている理由だと思う。どちらかと言えば、使い勝手の面で評価を得ているといえる。そういう面では、スマートフォンとは少し異なるビジネスモデルになっている。
これからは、自動運転につながるADAS(先進運転支援システム)など向けの技術、具体的には衝突防止用ミリ波(60GHz)レーダー、車車間通信用無線(IEEE 802.11p)、超音波センサーの展開を強化していく。
EETJ 車向けは、売り上げが計上できるまで時間がかかります。
中島氏 投資に対する回収の考え方を変えていかなければならない。幸い今は、投資から回収までの時間を待つだけの体力が今はある。今のうちに、何とか仕掛けをしていきたい。
EETJ 投資といえば、ソニーの業務用リチウムイオン電池事業を買収することで合意されました。
中島氏 これまでエネルギー事業として、DC-DCコンバーターやAC-DCコンバーターの電源モジュールを主に展開してきたが、これらの事業は、いわゆるスマイルカーブの底に位置する。組み立て部品として取り組んでも、事業の継続は望みにくかった。
そこで、エネルギー市場のスマイルカーブの川上/川下で収益を上げられる事業を手掛ける必要があった。1つは、効率性の良い半導体デバイスを開発するところ。ここでは、2014年にPeregrine Semiconductorを買収し、デバイスの強みを打ち出した高効率のDC-DCコンバーターを作って行こうとしている。これは従来のムラタのビジネスの方向性に近いものだ。
もう1つスマイルカーブで収益を上げられるのが、BEMSやHEMSといったエネルギーマネジメントの部分でソリューションを提供することだ。そのソリューションの構成要素の1つとして、インバーターやコンバーターといった電源がある。こうした電源については、小さく、高効率に作ることができるようになった。そして、電源以上に大きな構成要素がバッテリーだ。このバッテリー、蓄電技術を外部に頼るのは得策ではないと考えていた。
EETJ 村田製作所としてもこれまで、リチウム電池の開発を進めてきました。
中島氏 2006年からリチウム電池の開発を主に車向けとして開発し、ようやく2017年から民生機器や蓄電機器向けにようやく出荷できるところまで来ていた。しかし、1年前にエネルギー事業を担当し始めたときから、ムラタの電池事業としては、本格的なモノづくりから遠く、5年、10年の時間がかかるという印象を受けた。
そこで今回、縁あって、ソニーの事業を買収することになった。買収の理由は、4つあるのだが、そのうち1つは市場で認められている“生産実績のあるプレーヤー”であることだった。ある程度、技術的には、ムラタ内部で構築できたものの、やはりリチウム電池は危険なデバイスであり、市場では生産実績が重視されるからだ。
建物を含む“インフラを持つプレーヤー”である点も4つの理由のうちの1つだ。電池の製造設備は防爆設備を導入する必要もあり、高コストになる。
要するに、当初から、生産実績、インフラのあるプレーヤーと一緒にやっていく必要性を感じていた。そうでなければ、われわれだけで実績を残すには、5〜10年の時間と、巨額な投資を費やさなければならなかった。
EETJ 残りの2つの買収理由も教えてください。
中島氏 ムラタがこれまで開発してきた電池は、セラミックコンデンサーで培った積層技術を生かした少しニッチな電池だった。しかし、ニッチなエリアだけでは、材料コストはなかなか下がらず、トータルのボリューム、量産規模が必要になる。だから“ボリュームを持っているプレーヤー”と一緒にやるということが必要不可欠だった。これが3つ目の理由だ。言ってしまえば、特長のあるニッチな製品で利益を生み出す。そして、ボリュームを狙う製品では、さすがに赤字はダメだが……、ある程度の利益を狙う……、というビジネスモデルを採ることができるようになる。
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