当初、ポストArFスキャナー技術として開発が精力的に進められたのは、EUVリソグラフィである。技術的な飛躍度は極めて高いものの、いったん導入すれば何世代にもわたって利用できる見通しがあったからである。1997年には米国でIBMやIntelなどを中核とするEUVL LCCという開発コンソーシアムが立ち上がった。しかしEUVリソグラフィの開発は光源の大出力化などに手間取り、65nm世代〜45nm世代には間に合わせることができなかった。
競合技術のF2レーザースキャナー技術でも、1999年ころからコンソーシアム方式などで世界各地域で研究開発が進められた。要素技術ではF2レーザー、レンズ、レジストなどを開発する必要があり、EUVリソグラフィに比べると技術的な飛躍の高さはそれほどないものの、要素技術の開発は簡単にはいかなかった。それでも開発は継続され、2003年には露光装置のプロトタイプが完成するまでに達した。
ところがここで、「大逆転」が起こる。ArF「液浸」リソグラフィがポストArF露光の技術候補として急速に浮上してきたのだ。
「液浸」とは「液体浸漬」の略称である。「液浸」技術では、投影レンズとレジスト(ウエハー表面)の間に屈折率が高い液体を挿入することによって光の波長を大気中よりも短くし、解像度を高める。液体の最有力候補は純水である。ArFレーザーの波長193nmにおける純水の屈折率は1.44なので、純水中で光の波長は134nmに短くなる。言い換えると、F2レーザーの157nmよりも短い波長が得られる。
粗い言い方だが極めて重要な事実は、ArF露光工程で「純水を垂らすだけ」で波長がF2よりも短くなるということだ(実際には光学系やレジストなどの改良が必要)。純水は比較的安価な材料で、半導体生産工程では一般的かつ大量に使われる。その純水をレンズとウエハーの間に挟むだけで、解像可能な寸法は0.7倍に短くなるのだ。しかもArF露光システムを構成する要素技術のほとんどが、ArF「液浸」露光に流用できるとみられた。
ArF「液浸」露光の提唱は2002年に始まり、2003年2月のリソグラフィに関する世界最大の国際学会「SPIE」で技術発表がなされたことにより、一気に火が付いた。それからわずか1年の間に、次世代リソグラフィ技術の開発テーマはほぼ完全に、ArF液浸露光技術に集約されていった。
ここで怒涛(どとう)のように露光装置を開発していったのがオランダのASMLである。2004年8月にArF液浸露光装置の第1世代機(プロトタイプ機)「AT:1150i」を出荷すると、その年だけで第2世代機(プリプロダクション機)「XT:1250i」、第3世代機(量産機)「XT:1400i」と立て続けに評価機を出荷していく。
2006年には第4世代機(量産機)「XT:1700i」を出荷する。「XT:1700i」は45nm世代の量産に向けたArF液浸スキャナーで、光学系の開口数(N.A.)が1.20と、初めて1.00を超えた露光装置である。2003年にArF液浸露光の概念が燎原の火のようにリソグラフィ業界に広がってから、わずか3年でN.A.がこれまでの限界とされてきた1.00を超えた量産用露光装置が登場したことになる。
そしてArF液浸スキャナーが10年後の現在でも使われているのはご承知の通りだ。かつてはあれほど嫌がられたダブルパターニング技術を導入し、さらにはトリプルパターニング技術、クオドパターニング技術を採用することでArF液浸露光技術は延命しようとする。その先に何があるのかは、次回以降の本コラムでご報告したい。
(次回に続く)
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