今回の研究成果は、これまで東北大学中沢研究室で開発してきたQAM型QNSC方式と、学習院大学平野研究室で開発してきた4値QKD方式を組み合わせることで実現したという。秘匿光通信システムの検証に向けて、19インチラックサイズのQAM型QNSC装置および4値QKD装置を開発し、それらを組み合わせてシステムを構築した。これらの装置は、一般的に用いられる市販の光通信用デバイスを利用しているという。
開発した秘匿光通信システムによる実験では、4値QKD装置により200ビット/秒以上の速度で共通鍵を生成し、その共通鍵を100kmの距離まで伝送した。この鍵はQKD方式により、高い安全性を確保している。一方、QAM型QNSC装置では、QKDとは別の100km伝送路を用い、データを70Gビット/秒で高速伝送した。このため、片方の伝送路のみ盗聴されても、情報は正しく入手できないという。
開発したQAM型QNSC装置は、10ビットで暗号化したIとQデータを5Gシンボル/秒の速度で生成する。これらデータの暗号化に必要な1秒当りの乱数列のビット数は、わずか5×109×10=5×1010である。この値は4値QKDを利用して生成した乱数列のビット数(9.2×1018)と比べも十分に小さいという。これらの技術によって、QKD装置による高い安全性と、QAM型QNSC装置による高速伝送の両立を可能とした。
また、開発したQAM型QNSC装置は、QAMデータの多値度を4〜128値の範囲で任意に切り替え、暗号化して伝送することが可能である。多値度に応じて、データの伝送速度も10〜35Gビット/秒の範囲で切り替わるという。
実験では、4〜128QAMデータを100km伝送し、復号前後における復調信号を実測した。その結果、正規受信者は共通鍵を用いることで元の信号を明瞭に判別することができるが、盗聴者にはランダムな信号にしか見えないことが分かった。
さらに実験では、最大128(=27)値のQAM信号を5Gシンボル/秒の速度で生成し、それを偏波多重して伝送した。その結果、単一チャネルで5×7×2=70Gビット/秒のビットレートを実現した。この時の周波数利用効率は10.3ビット/秒/Hzであり、伝送容量と距離の積は7Tビット/秒・kmに達するという。
研究グループによれば、開発した秘匿光通信システムの暗号化および復号回路を、10Gシンボル/秒に対応させることで、伝送速度を100Gビット/秒以上に高速化することができるという。また、波長多重(WDM:Wavelength Division Multiplexing)技術を組み合わせると、テラビット領域の暗号技術を容易に実現することも可能とみている。伝送距離についても、複数台のQKD装置を配置して量子鍵を多中継配信すれば、数百kmのセキュア通信が可能になるという。
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