米大学が、出力パワー密度が12.1kW/LのSiC(炭化ケイ素)インバーターを開発した。全て市販の部品を使って実現している。そのため、専用の部品を開発すれば、出力パワー密度がさらに向上する可能性もある。
米エネルギー省(DoE:Department of Energy)は2010年に、当時4.1kW/Lだった電気自動車インバーターの出力パワー密度を、2020年までに13.4kW/Lに高めるという目標を設定した。今や、12.1kW/Lのインバータが実現し、その目標達成への道が開かれようとしている。
米North Carolina State University(NC State)が、ワイドバンドギャップ材料であるSiC(炭化ケイ素)を使用することで、従来の3倍の性能を達成することに成功したのだ。米国ミルウォーキーで2016年9月18〜22日(現地時間)に開催された国際学会「IEEE ENERGY CONVERSION CONGRESS AND EXPOSITION(ECCE)」において、その性能を実証する試作版を披露している。
NC Stateの教授であるIqbal Husain氏は、EE Timesのインタビューに応じ、「ワイドバンドギャップのパワースイッチは、電力損失を低減しながら、既存のシリコンベースのパワースイッチを上回る動作温度と動作周波数、電圧を実現する」と述べている。
NC StateのSiCインバーターは、DoE指令の実現を達成できるだけでなく、超小型モジュールへの搭載も可能だ。このためNC Stateは、「ハイブリッド車やあらゆる種類の電気自動車の燃料効率を高められる」と主張する。
Husain氏は、「今回開発したインバーターの最も重要な側面は、燃費効率と小型化、軽量化である。われわれはこれを、全て市販部品を使って実現することに成功した。今後、さらに部品レベルでの開発に取り組むことにより、DoEの設定目標に近づくことができる。近い将来に実現し、市場投入できる見込みだ」と述べている。
既存のインバーターは、従来のシリコン半導体の狭バンドギャップに依存する。しかし、NC StateのFuture Renewable Electric Energy Distribution and Management(FREEDM)システムセンターの研究グループによると、今回開発したワイドバンドギャップSiCインバーターは、99%の高効率を達成したという。これは、既存のコンバーターと比べて2%高い数値だ。また、市販部品を使用していることから、インバーター向けとして特別に高度な最適化を行った部品を使えば、さらに優れた性能を実現できるという期待を集めている。
実際のところ、FREEDMの研究所は既に、超高密度のSiCコンポーネントの製造を本格化させているため、2020年よりももっと早い段階でDoEの設定目標を達成できる見込みだとしている。また、ワイドバンドギャップ材料は、狭バンドギャップ材料よりも生成する熱量が小さいため、研究グループは現在、既存のコンバーターに不可欠な液体冷却システムを、不要にするための取り組みを進めているという。
現在、55kWのモーター向けに試作品を作っているが、約35kWクラスのより小型なモーターに適した、空冷版も実現できる見込みだという。これは、バイクや小型ハイブリッド車などへの搭載が可能なレベルだ。また、同研究所は、市販部品を使用したモデルとして、フルサイズの電気自動車で使用可能な、100kWモデルを実現するための取り組みを進めている。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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