後編となる今回は、NXP Semiconductors(NXPセミコンダクターズ)の「i.MX8」アーキテクチャや、プロセス技術、マシンビジョンなどの側面から、今回の買収による影響を掘り下げる。
NXP Semiconductors(NXPセミコンダクターズ)は、最近行った製品説明の中で、「i.MX8」アーキテクチャが実現する本質的な安全性と信頼性について強調している。同社の開発担当者は、「新しいアーキテクチャは、組み込みハードウェアベースの仮想化とドメイン保護を確実に実現することができる」と主張する。
自動車メーカーは現在、ソフトウェア定義されたデジタルコックピット技術に興味を示し始めている。多くの半導体メーカーが、インフォテインメントシステムとデジタルゲージクラスタの両方を動作させることが可能な、1つのプロセッサを使用するという手法を推進している。NXPのi.MX8も、このような分野に対応した数多くのアプリケーションプロセッサの1つである。
しかし、NXPのi.MX 8シリーズアプリケーションプロセッサ担当プロダクトマネジャーを務めるKyle Fox氏は、EE Timesが最近行ったインタビューの中で、「i.MX8と、競合するデジタルコックピット向けSoC(System on Chip)とでは、大きく異なる点が1つある。それは、i.MX 8が、これまで他のどのアプリケーションプロセッサも実現できなかったレベルの安全保護機能を提供することができるという点だ」と述べている。
Fox氏は、「NXPは、ハイパーバイザーの安全性を信頼することができなかったため、i.MX8アーキテクチャの開発にあたり、GPUからシリアルポートに至る全てのIP(Intellectual Property)リソースのハードウェアに、リソース保護や所有権、アクセス許可などを組み込んだ」と説明する。
The Linley Groupでシニアアナリストを務めるMike Demler氏は、「Qualcommは現在、NXPのi.MX8に匹敵するようなプロセッサを持っていないため、i.MX8を廃止する理由は全く見当たらない」と述べている。
QualcommのCEOであるSteve Mollenkopf氏と、NXPのCEOであるRichard Clemmer氏はいずれも、今回の合併買収によって両社が担うことになる、補完的役割について強調している。
その一例としては、自動車をはじめとするさまざまな製品分野で使用されている、マルチコアARM設計などがある。
Krewell氏は、「両社とも、マルチコアARM設計を手掛けているが、そのターゲット市場はそれぞれ異なる。また、両社ともウェアラブル機器向けプロセッサを開発しているが、Qualcommの方がコネクティビティに優れる一方で、NXPの方がマイコンの選択肢を幅広くそろえている。Qualcommは最近、組み込み戦略を開始したばかりだが、組み込み分野ではNXPの方がはるか先を行っている」と述べる。
さらに自動車市場でも、両社の技術的な強みや市場経験はそれぞれ異なる。
NXPは、インフォテインメントや安全システム、ボディー、ネットワーキング、パワートレイン、シャシー、セキュアアクセスなどの分野をリードしていくだろう。Qualcommによる買収後は、Qualcommのテレマティクスやコネクティビティがポートフォリオに追加されることになる。
IHS Markitで車載半導体担当アナリストを務めるAhad Ahmed Buksh氏は、「NXPの強みは、SDR(ソフトウェア定義無線)やNFC(近距離無線通信)、サイバーセキュリティ、CMOSレーダー、プロセッサ、自動車機能安全などの分野にある。一方のQualcommは、5G(第5世代移動通信)やAI(人工知能)、V2X(Vehicle to Everything)、ワイヤレス給電技術などの分野で優位性を確保している」と指摘する。
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