理化学研究所(理研)の瀧宮和男氏らによる研究チームは、有機両極性半導体を用いたデジタル回路で、消費電力を大幅に削減できる手法を開発した。
理化学研究所(理研)創発物性科学研究センター創発分子機能研究グループの瀧宮和男グループディレクター、中野正浩特別研究員らの研究チームは2016年11月、有機両極性半導体を用いたデジタル回路で、消費電力を大幅に削減する手法を開発したと発表した。シリコン基板上にアルキル処理を施し、有機両極性半導体中のキャリア種を正孔/電子のいずれかに制御することを可能としたことで実現した。
有機半導体は、材料の溶液を基板上に塗布することで、半導体層を形成することができ、インクジェットなど既存の印刷プロセスを適用して製造することが可能である。このため大面積への対応が容易で、製作コストも無機半導体に比べて安価というメリットがある。しかし、デジタル回路を製作するには、正孔伝導型と電子伝導型の2種類の材料を用意し、それぞれ塗り分ける必要があった。これに対して両極性半導体は、正孔と電子の両方のキャリアを利用できるため、回路製作が容易となる。
研究チームは今回、両極性半導体と有機半導体の特性を併せ持つ「有機両極性半導体」に注目した。単一の材料を一様に塗布するだけで、デジタル回路を実現することができるからだ。半面、有機両極性半導体を用いたデバイスは、正孔/電子のうち動作に必要なキャリアのみを選択的に用いることが難しく、消費電力が増加するという課題があった。
そこで研究チームは、マックスプランク研究所のハーゲン・クラーク氏らが2015年に発表した論文の中で、「基板上に製作した単分子膜が有機半導体中に電荷層を形成し、有機半導体の特性に影響を与える」という研究に注目。有機両極性半導体のキャリアの種類を制御する方法として、電荷層に着目して開発を行ってきた。
研究チームは、有機両極性半導体デバイスのシリコン基板上に、マイナスに帯電したフッ化アルキルの単分子膜を製作した。そうしたところ、半導体内部にプラスの電荷層が発生し、電子が電荷層に捕集されて動けなくなることが分かった。これにより、有機両極性半導体内部を流れるキャリアは、正孔のみとなった。一方、プラスに帯電したアミノアルキルの単分子膜を用いた場合には、マイナスの電荷層が発生して、半導体内部のキャリアは電子のみに限定されることが分かった。
研究チームは、これらの成果を組み合わせてCMOSインバーターを作製し、消費電力を検証した。このデータから、有機両極性半導体を用いたデバイスでも、キャリア種を適切に制御すれば、消費電力の大幅削減が可能になることを実証した。
研究チームによれば、有機両極性半導体を実用化する上でネックとなっていた、消費電力の課題を解決できたことで、「軽量」「柔軟」「低コスト」「省エネルギー」を実現する、次世代エレクトロデバイスの開発に弾みがつくとみている。
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