スマートフォンやウェアラブル機器、ストレージ、車載情報機器などにおいて高いシェアを持つARMだが、ここ数年間注力しているにもかかわらず、サーバ市場での存在感は小さい。宮内氏は、サーバ分野におけるARMの動きについても触れていた。
最も大きなニュースは、ソフトバンクが投資している米スタートアップPacketが、ARMサーバを使用したベアメタルクラウドを提供し始めたことだ。米国では11月末に提供が開始され、日本では2016年12月16日から開始する。ベアメタルクラウドとは、物理サーバを使ったクラウドサービスを指す。一般的なクラウドでは、物理サーバ上で実行する仮想サーバを複数のユーザーで共有するが、ベアメタルクラウドでは物理サーバを占有できる。そのサーバに、ARMサーバが用いられている。宮内氏は、「ARMサーバを用いることで、コストと消費電力が従来に比べて10分の1になった。一方でサーバラックの容量は、1ラック当たり7300コアと従来の3倍になっている」と説明する。Packetのベアメタルクラウドは、サービス開始2週間で既に400社が採用あるいは採用を検討しているという。
宮内氏は「あらゆるものをデジタル化していくことが鍵になる。データとテクノロジーを掛け合わせることでビジネスを変革していく」と語った。
ARMからは、Executive Vice President兼Chief Commercial OfficerのRene Haas氏が登壇した。同氏は開口一番、ソフトバンクによるARM買収に触れ、ARMのビジネスモデルや開発ロードマップなどは何も変わらないこと、現在2000人(そのほとんどがエンジニアである)いるARMの人員を今後5年間で2倍に増やすことなどを語った。Haas氏は「ソフトバンクによる買収で、ARMにおける開発はむしろ加速し、IoTやサーバといった、単独では参入が難しかったであろう市場にも積極的に入っていける」と強調した。
Haas氏は、現時点でのIoTの課題について、セキュリティ、コスト、知識(ナレッジ)を挙げた。とりわけセキュリティは特に重要とし、デバイスレベルでセキュリティを組み込む必要があると述べた。Haas氏は、その方法の1つとして、ARMのセキュリティ技術「TrustZone」を挙げた。TrustZoneはARMのプロセッサコア「Cortex-A」シリーズに搭載されているが、コストと性能の面で制約されやすいIoTデバイスでもTrustZoneを採用できるよう、低消費電力のコア「Cortex-M」にもTrustZoneを実装した。それが最新アーキテクチャの「ARM v8-M」である。ARMは2016年10月、ARM v8-Mを採用した最初のファミリーとして「Cortex-M23」「Cortex-M33」を発表した。
Haas氏は、「ただし、デバイスレベルでのセキュリティは、IoT機器におけるエコシステムのほんの1レイヤーでしかない。通信(モバイルネットワークなど)レベルとクラウドレベルでのセキュリティも必要になる。通信レベルでは、Wi-FiやNB(Narrow-Band)-IoTなどのネットワークがあるが、そうしたネットワークでのセキュリティの工夫がまだ足りない。クラウドレベルでのセキュリティについては、例えばスマートフォンでは、クラウドを使ってセキュリティ機能のアップデートを頻繁に行うが、IoTデバイスについてもそれと同様の対策をすべきである」と話した。
Haas氏は、「2016年10月に米国で『ARM TechCon』が開催されたが、その直前、大規模なDDoS攻撃が、さまざまな企業に対して仕掛けられるという事態が発生した。その原因となったのは、家庭にあった古いルーターだった。DDoS攻撃は、このようにシンプルなデバイスから始まり、最終的に大規模なダメージを与えたのだ。この事件によって、セキュリティにはさまざまな抜け穴があることが、あらためて認識された」と述べた。そして、こうした“セキュリティの抜け穴”をつぶすには、ARM単独ではできないので、エコシステムでの連携・協力が欠かせないと語った。
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