TDKが、センサーを手掛ける米InvenSenseを、約13億米ドル(約1572億円)で買収する。TDKは、センサーを、中期的に伸ばすべき製品の1つに定め、海外のセンサーメーカーを積極的に買収してきた。TDKは2020年度までに、センサー事業の売上高を現在の4倍となる2000億円へと引き上げる計画だ。
TDKは2016年12月21日、センサーを手掛ける米InvenSenseを買収すると発表した。InvenSenseの全発行株式を、1株当たり13米ドルで取得し、完全子会社化とする。買収金額は約13億米ドル(1米ドル118円換算で約1572億円)を想定している。買収については両社の取締役会において既に可決されていて、2017年9月末までに完了させる予定だ。
InvenSenseは、慣性センサー、加速度センサー、ジャイロセンサーなど各種センサーおよび制御ソフトウェアの開発、製造、販売を手掛けるファブレスメーカーだ。従業員数は2016年10月時点で675人。2016年3月期の売上高は4億1800万米ドルである。特にスマートフォンやウェアラブル機器、ゲーム機、カメラの手振れ補正などの分野で強く、これまでに20億個以上の慣性センサーを出荷している。6軸慣性センサー市場でのシェアは6割を超える。
一方のTDKは、2018年3月期までの3カ年中期経営計画において、自動車、産業機器およびエネルギー、ICT(情報通信技術)を重点3分野に掲げ、その中で、中期的に成長させる製品として「センサー/アクチュエーター」「エネルギーユニット」「次世代電子部品」の3つを定めている。
とりわけIoT(モノのインターネット)においてセンサーは欠かせないものであり、TDKは同事業の拡大に積極的に取り組んできた。例えば2016年3月には、ホール素子センサーを手掛けるスイスMicronas Semiconductor(ミクロナス)を買収。同年8月には、フランスのセンサーメーカーTronics Microsystems(トロニクスマイクロシステムズ)を買収すると発表している。
このようにセンサー事業の拡大に取り組むTDKがどうしても獲得したかったのが、慣性センサー技術だ。TDKの社長を務める石黒成直氏は、「非光学式センサーのセグメントにおいて、慣性センサーは最大の規模であり、2020年にかけて変わらぬ規模を維持するとみられている。さらに、慣性センサーは用途例や顧客層の裾野が広く、当社のセンサー事業戦略に欠かせない要素技術だと考えてきた」と話す。
石黒氏は、買収の目的は大きく3つあると説明する。「1つは、非光学式センサーの製品ポートフォリオを拡充すること。2つ目は、InvenSenseが強みを持つ慣性センサー技術を獲得することで、センサーフュージョンなど、顧客のニーズによりマッチした製品を提供すること。3つ目は、TDKの販路や、Qualcommと設立した合弁会社であるRF360 Holdings Singapore*)を活用することで、InvenSenseの製品を、ICTや自動車、産業機器の各市場に向けて拡大していくことである」(同氏)
*)TDKは2016年1月、Qualcomm(クアルコム)と合弁会社「RF360 Holdings Singapore」を設立することを発表。RFフロントエンドモジュールやRFフィルターを提供する他、センサーや非接触給電においても技術協力を拡大するとした。
石黒氏は、「センサービジネスとは、顧客の期待に対し、ベースとなる素材、例えば磁気センサーや慣性センサーなどの素子を組み合わせ、その上に処理回路やソフトウェアを追加し、さらに適切なパッケージングを施してモジュール化した製品を提案、提供することにある。InvenSenseは慣性センサーなど各種センサーに加え、ソフトウェアやアルゴリズムを自社で開発しているという強みを持っている。一方で当社は、素材としては磁気センサーやマイクロフォンに強みを持ち、IC内蔵基板『SESUB』やパッケージングといったモジュール化の独自技術も持っている。つまり、今回の買収により、製品ポートフォリオの拡充だけでなく、素材からソリューションまで提供できるようになる」と、買収のシナジーを強調した。
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