(その2)長期的に変なヤツを排除しつつ、自分の意に沿わぬヤツが当選しても、そこにリーダーシップを発揮できるようにできているから
合衆国大統領の予備選挙では、約1年間という長い時間をかけて、党内選挙を繰り返すことで、思想的なエクストリームな奴(極左とか極右とかカルトとか)を排除できます。
また、もし最終投票数が拮抗している場合であっても(まさに、今回の大統領選挙がこのケース)、選挙人の数に圧倒的な差を作り出すことで、「圧勝」を演出することが可能となり、国民に「仕方ねーな」という気持ち作り出すことができることの効果は、結構大きいと思います(例えば、カリフォルニア州なんて、その気になれば、合衆国から離脱して、独立国家になれそうな規模がありますしね)。
それと、日本でいう「1票の格差」という意味とは全く違う意味で、「1票の重み」が違うことも大きそうです。前回のシミュレーションで示した通り、たった1万人に1人の心変わりで、選挙の結果がガラっと変わってしまうことは、有権者に対して、強い投票へのモチベーションを発揮させることができるはずです(と言いつつ、今回の選挙の投票率は半分(50%)を割っていたようですが)。
(3)米国民の気質(変化を求める気質、その場のノリを重視する気質)を反映させることができるから
私たち日本人は基本的に「変化」が嫌いな民族です。ティーンのころは、クラス替えや席替えですら憂鬱(ゆううつ)でしたし(参考ブログ)、社会人になっても、自分が所属する部署の安寧のために奔走しています。
一方、米国は ―― 米国在住の読者の方(Cさん)から頂いたご意見によれば ―― 『一発当てたい人たちが多数を占める国民』なのだそうで(実は私もひそかにそう思っている)、 「変化」を望ましいものと考える人々が多い国として、把握できそうです。
このような「変化を求める気質」は、遺伝子の突然変異のように、その遺伝子を有する個体に劇的な改善をもたらす場合もある*)のです(多くの場合は失敗しますが)。
*)このような遺伝子の仕組みを利用した高速最適解探索手法に、「遺伝的アルゴリズム(Genetic Algorithm:GA)」があります。次回以降にご紹介致します
ところが、米国は、大統領の交代に伴う経済政策によって、劇的に国内経済が改善された実績を持つ国家でもあります(ニューディール政策とかレーガノミックスなど)。つまり大統領選挙は、米国全土を巨大な競馬場と見立てた、4年に一度だけ開催される、「天皇賞」や「菊花賞」みたいなものです。
しかも、米国大統領選挙という「天皇賞」や「菊花賞」は、1年前から地方競馬場で選抜が始められているので(党内の予備選挙のこと)、いやがおうにも気分は盛り上がってきます。そして、4年に一度のギャンブルであれば、「万馬券」を狙っていくのが人情というものでしょう。
そして、単なるその人の過去の実績だけではなく、自分の未来の夢の国までも立候補者に託すあたりなど ―― 私は『心の底から立候補者に未来を託す』などという発想を一度も持ったことはありませんが ―― さすがは「夢と魔法の王国」などという、(日本人であれば恥しくてとても口にできそうもない)コンセプトを伴った近代アミューズメントビジネス発祥の地の、面目躍如とも言うべきでしょう。
以上、総括しますと、
―― 合衆国大統領選挙(の選挙人制度)は、あの国の国民と、いい感じでマッチングしている
と言えそうです。
いずれにしろ、この合衆国選挙と、この連載のテーマである人工知能との関係においては、
(1)対立する2大候補の支持率が拮抗している状態では、大統領選挙の当落予測は、次に出るサイコロの目を予測するようなもので、人工知能"技術"はもちろん、いかなる技術を用いても困難である(これは前回の結論)、
という事実に加えて、
(2)その未来不確定で、私には不合理にも見える選挙システムを、数値化困難なファクター(変化とかノリとか、薔薇色の未来予想図とか)を属性として有するユーザー(米国国民)自身が、今なお、この選挙制度を支持し運用を続けている(これは今回の結論)
という事実が加わって、相乗的に「予測不能ポテンシャル」が極大化し、まあ、今後1000年先も、合衆国大統領選挙は、"人工知能"の予測の対象外としてもいいのだろうなー、と私は考えています。
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