私は、前回のコラムで、米国大統領の「選挙人制度」を、批判的な観点から論じていました。しかし、gauraさんからは、前述の超高速シミュレーションの方式解説に加えて、合衆国大統領の仕組みの優れた点についての、かなり長文のご意見を頂きました。
このメールを読んだ時、正直、頭をぶん殴られたようなショックを受けました。
「合衆国大統領選挙制度の優れた点」――その観点、イケる。
米国大統領選挙の欠点については、既に前回の連載で、私が言及した内容で足りていると思いますが、これだけの欠点がありながら、(歴史的経緯があるとはいえ)、米国民がこの選挙制度の修正を試みようとしないのは、もっと深い合理的な理由があるはず ―― そういう観点で、この選挙制度を見直してみることにしました。
そこで今回、私は、もう1つの連載「世界を「数字」で回してみよう」でアンケートに参加を申し込んでくださっている方に、無理を承知の上で、以下のメールの文面を送付し、ご協力を要請しました。
江端は、"Over the AIの第5回"にて、米国大統領選挙の選挙人制度が、民意を反映しにくいシステムであると指摘しました。これに対して、この制度が「優れている」という観点から、皆さんの論をご展開して頂ければ幸いと存じます。ご協力の程、なにとぞよろしくお願い致します。
頂いた、12人の皆さんの持論(仮説)の全部がこちらになります。長文ですが、いずれも素晴らしい説なので、ぜひご一読ください。
さて、皆さんの「合衆国大統領選挙がなぜ優れているか」のご持論(仮説)は、大きく以下の3つのカテゴリーに分けられるようです。
(その1)多民族、多宗教、かつ国家の合衆体(合衆国)であるという面倒な問題に対応しうる選挙制度であるから
確かに、私にしても、宗教間や民族間の対立というのは字面では理解できても、肚の底から理解できているかと問われれば ―― 正直、さっぱり訳が分かりません。
私は ―― 正月には神社または寺社(この2つは、全く性質の異なるモノですが)に行き、お盆には先祖の霊をお迎え/お見送りし、10月には「トリック オア トリート」と叫びながら仮装に興じ、クリスマスイブにはミサに行き*)、死んだ時はお坊さんに遺体の処理手続を委託する ―― という典型的な日本人です。
*)「英会話スクール出逢い機関論」「クリスマス脅迫症候群」
もし私が、イスラム原理主義者のテロリストに銃を突き付けられて、「イスラムに改宗しろ!」と言われたら、1秒もたたずに「いいよ」と言いますし、1分後にはコーランの暗記を始めることもできます(というか、銃を突きつけられてまで「改宗に同意しない」って感じが理解できない。ぶっちゃけ、言うだけならタダじゃん、て思っています)。
このように、宗教的観念が空気のように希薄なわれわれ日本人の在り方は、宗教を根拠とした戦争や虐殺や殺りくの無意味さを、世界に対して雄弁に語るはずなのですが、多分、多民族、多宗教国家である米国では、そうも言っていられないのでしょう。
それに、合衆国の各州間の格差は、もっとシビアです。なにせカリフォルニア州の選挙人55人なのに対して、アラスカ州ではたったの3人です。アラスカ州の意見を大統領選にダイレクトに反映させるのは絶望的と思えます。
それなら、嫌がらせくらいはできる仕組みは必要でしょう。アラスカ州の人々は「俺たちを蔑(ないがし)ろにしていると、当落のボーダーラインで痛い目に遭うぜ」くらいは言いたいはずです。
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