「抵抗変化メモリの開発動向」シリーズの最終回となる今回は、セル選択スイッチ技術の中でも有望な、しきい電圧を有するスイッチ(スレッショルド・スイッチ)を紹介する。代表的な4種類のスレッショルド・スイッチと、それらの特性を見ていこう。
半導体メモリの研究開発に関する国際学会「国際メモリワークショップ(IMW:International Memory Workshop)」のショートコース(2016年5月15日)から、SanDiskによる抵抗変化メモリ(ReRAM)の研究開発動向に関する講演概要をご紹介している。今回はシリーズの13回目に相当する。
抵抗変化メモリの開発動向バックナンバー: | |
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(1) | SanDiskが語る、半導体不揮発性メモリの開発史 |
(2) | SanDiskが語る、コンピュータのメモリ階層 |
(3) | SanDiskが語る、ストレージ・クラス・メモリの概要 |
(4) | SanDiskが語る、ストレージ・クラス・メモリの信頼性 |
(5) | SanDiskが語る、抵抗変化メモリの多様な材料組成 |
(6) | SanDiskが語る、抵抗変化メモリの消費電流と速度 |
(7) | SanDiskが語る、抵抗変化メモリの電気伝導メカニズム |
(8) | SanDiskが語る、抵抗変化メモリのスイッチングモデル |
(9) | SanDiskが語る、抵抗変化メモリの長期信頼性 |
(10) | SanDiskが語る、抵抗変化メモリの抵抗値変化 |
(11) | SanDiskが語る、抵抗変化メモリのセルアレイとセルの選択 |
(12) | SanDiskが語る、抵抗変化メモリのセル選択スイッチ技術(前編) |
講演者はスタッフエンジニアのYangyin CHEN氏、講演タイトルは「ReRAM for SCM application」である。タイトルにあるSCMとはストレージ・クラス・メモリ(storage class memory)の略称で、性能的に外部記憶装置(ストレージ)と主記憶(メインメモリ)の間に位置するメモリとされる。ここで性能とは、メインメモリよりもコスト(記憶容量当たりのコスト)が低く、ストレージよりも高速であることを意味する。
本シリーズの12回目である前回は、高密度なメモリセルの実現に不可欠な、2端子のセレクタ(セル選択スイッチ)技術を概観した。今回は、代表的なセル選択スイッチの具体的な特性をご報告する。
前回の後半でご紹介したように、さまざまなセル選択スイッチ技術の中で比較的良好な特性を有するのは、「しきい電圧を有するスイッチ(スレッショルド・スイッチ)」である。そこで代表的な4種類のスレッショルド・スイッチ技術を取り挙げ、その特性を概観しよう。
4種類のスレッショルド・スイッチ技術とは、「OTS(Ovonic Threshold Switch)」「MIT(Metal-Insulation Transition)」「MIEC(Mixed-Ionic-Electronic-Conduction)」「FAST(Field Assisted Super-Linear Threshold)」である。いずれも国際学会IEDMで2012年から2014年にスイッチの試作結果が発表されているので、ここではIEDMで公表された電流電圧特性を比較する。なおOTS技術はSamsung Institute of Technology、MIT技術はPOSTECH、MIEC技術はIBM Research、FAST技術はCrossbarの研究データである。
はじめは、スイッチをオフにした状態での特性を比較した。オフ状態では、理想的には一定の低い印加電圧領域で電流をゼロ(抵抗をほぼ無限大)にすることが求められる。しかし実際にはわずかながら、電流が流れてしまう。オン状態が前提であるスイッチ技術は、理想的なオフ状態を実現することには本質的な難しさがある。
4種類のスイッチ技術の中ではFAST技術のスイッチが電流の切れが良く、オフ状態での電流が低い。MIEC技術は電流は低いものの、オフ状態の電圧領域があまり広くない。これらの2つのスイッチ技術に比べると、MIT技術とOTS技術は電流があまり低くないという弱点がある。
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