SanDiskが語る、抵抗変化メモリのセル選択スイッチ技術(後編):福田昭のストレージ通信(54) 抵抗変化メモリの開発動向(13)(2/2 ページ)
オン状態、すなわち電流が多く流れる状態を出現させることは、スイッチ技術にとってそれほど難しいことではない。むしろ問題となるのは、オン状態におけるスイッチの抵抗値(オン抵抗)と、記憶素子の抵抗値とのバランスである。
4種類のスイッチ技術では、OTS技術とMIT技術はオン状態での電流が高い。MIEC技術は電流がそれほど高くなく、不十分となる恐れがある。
4種類のスレッショルド・スイッチ技術でオン状態の特性を比較した。左からOTS、MIT、MIEC、FASTである。いずれのグラフも縦軸が電流(対数目盛り)、横軸が電圧(線形目盛り)。出典:SanDisk(クリックで拡大)
スレッショルド・スイッチの特性を決めるもう1つの重要な特性に、しきい電圧(Vth)がある。しきい電圧の高低が、スイッチの非線形性(電流電圧特性の急峻な変化の度合い)を決めるからだ。
スレッショルド・スイッチでは印加電圧がしきい電圧よりも低いときは電流がほとんど流れず、印加電圧がしきい電圧よりも高くなり始めると電流が急激に増加する。しきい電圧があまりに低すぎると、印加電圧が低くても電流が流れてしまい、スイッチの意味がなくなってしまう。かといってしきい電圧があまりに高すぎると、読み出しマージンが減少するとともに、書き換え電圧と読み出し電圧の差が縮まって読み出しディスターブ不良の恐れが高まる。
4種類のスイッチ技術を比べると、OTS技術はしきい電圧の値が適切であり、読み書きのバイアス電圧を余裕を持って分離でき、読み出しマージンを十分に確保できる。MIT技術はしきい電圧がかなり低く、読み出しディスターブ不良の恐れが残る。MIEC技術はしきい電圧が低すぎるため、バイアス電圧の設定がかなり難しい。FAST技術はしきい電圧の値が適切であり、読み出し電圧と書き換え電圧の間に0.75V前後と十分な余裕がある。
4種類のスレッショルド・スイッチ技術でしきい電圧(Vth)の特性を比較した。左からOTS、MIT、MIEC、FASTである。いずれのグラフも縦軸が電流(対数目盛り)、横軸が電圧(線形目盛り)。出典:SanDisk(クリックで拡大)
⇒「福田昭のストレージ通信」連載バックナンバー一覧
《次の記事を読む》
- “IoT熱”は一段落? 本命はAIか
「CES 2017」の開催まで約2週間となった。世界最大規模のコンシューマー・エレクトロニクスの展示会における、2017年の注目株は何だろうか。
- 中国のメモリ市場、2017年はどう動くのか(前編)
半導体産業の拡大と強化に国をあげて注力する中国。その中国が現在、焦点を当てているのがメモリ分野だ。
- IEDMで発表されていた3D XPointの基本技術(前編)
米国で開催された「ISS(Industry Strategy Symposium)」において、IntelとMicron Technologyが共同開発した次世代メモリ技術「3D XPoint」の要素技術の一部が明らかになった。カルコゲナイド材料と「Ovonyx」のスイッチを使用しているというのである。この2つについては、長い研究開発の歴史がある。前後編の2回に分けて、これらの要素技術について解説しよう。
- スピントロニクス素子を用いたAI動作実証に成功
東北大学の研究グループは2016年12月19日、磁石材料から構成されるミクロなスピントロニクス素子を用いた人工知能(AI)の基本動作実証に「世界で初めて」(同グループ)成功したと発表した。
- SRAMの基本要素とレイアウト
今回からはSRAMについて知っておくべきことを紹介していく。まずは、多くの半導体メモリにも共通するSRAMシリコンダイの基本レイアウトから説明していこう。
- 20年論争決着、磁性半導体の強磁性示す仕組み解明
東北大学らの研究グループは、磁性半導体の(Ga,Mn)Asが強磁性を示すメカニズムを解明した。新たなスピントロニクス素子の開発を加速させるものとみられている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.