北海道大学の海住英生准教授らによる研究グループは、「逆磁気キャパシタンス(iTMC)効果」を発見した。この物理現象を応用した新タイプのセンサーやメモリ開発に弾みを付ける。
北海道大学の海住英生准教授らによる研究グループは2017年6月、「逆磁気キャパシタンス(iTMC)効果」を発見したと発表した。「世界で初めて発見された物理現象」だと主張する。新たなタイプの高感度磁気センサーや磁気メモリの開発につながるとみられている。
今回の成果は、北海道大学電子科学研究所附属グリーンナノテクノロジー研究センターの海住氏や西井準治教授の他、同大学院工学研究院の長浜太郎准教授と島田敏宏教授、東北大学多元物質科学研究所の北上修教授および、ブラウン大学物理学科のシャオ・ガン教授らの共同研究によるものである。
磁場によりキャパシタンスが順方向に変化する現象(TMC効果)は、これまでも広く知られていた。2つの磁性層の磁化が互いに平行な場合はキャパシタンスが大きくなり、反平行の場合は小さくなる現象である。今回発見した現象はその逆となる。つまり、磁性層の磁化が平行の場合キャパシタンスは小さくなり、反平行の場合に大きくなる。
研究グループは今回、iTMC効果を解明するため「鉄」に注目した。鉄と同じ方向にさびた酸化鉄を磁化させると、電子のスピンの向きが鉄とは逆となる。この現象を利用した。検証を行うため研究グループは、分子線エピタキシー法を用いて、鉄と酸化鉄の間に絶縁層となる薄い酸化アルミニウムを挟んだ磁気トンネル接合を作製した。絶縁層の厚みはナノメートルレベルである。
作製した試料を磁場中に設置し、キャパシタンスの振る舞いを測定した。この結果、鉄と酸化鉄の磁化が平行の場合はキャパシタンスが小さく、反平行の場合に大きくなることが分かった。これまでのTMC効果とは全く逆の現象を示した。
研究グループは、周波数特性や直流電圧依存性など詳細な実験に加えて、理論的な検討も行った。そうしたところ、量子力学を取り入れた電荷蓄積理論により、実験結果を説明できることが分かった。理論計算によれば、窒化鉄とコバルト鉄ホウ素合金の間に薄い酸化マグネシウムを挟んだ磁気トンネル接合では、今回用いた鉄に比べて、キャパシタンスの変化率(iTMC比)が約10倍も大きくなることが判明したという。
研究グループによれば、iTMC効果に関する研究が進みiTMC比がさらに向上することによって、より感度が高く電力消費の小さい新タイプの磁気センサーやメモリを実現できるとみている。
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