産業技術総合研究所(産総研)の阿多誠介研究員らは、スーパーグロース法で作製したカーボンナノチューブ(SGCNT)を用いた水性塗料を開発した。この塗料を用いて形成した塗布膜は、99.9%を上回る電磁波遮蔽効果を実現した。
産業技術総合研究所(産総研)ナノチューブ実用化研究センターCNT用途チームの阿多誠介研究員、堅田有信特定集中研究専門員、物理計測標準研究部門で電磁気計測研究グループの加藤悠人研究員らは2017年6月、カーボンナノチューブ(CNT)を用いた水性塗料を開発したと発表した。この塗料を用いて形成した塗布膜は、99.9%を上回る電磁波遮蔽効果を実現した。自動車用ワイヤーハーネスやロボットなどへの応用を見込む。
産総研はこれまで、微量のSGCNT(スーパーグロース法で作製した単層カーボンナノチューブ)で高い電気伝導性を示すSGCNTゴム複合材料や、この材料を用いたフレキシブルデバイスなどを開発してきた。今回は、高い電磁波遮蔽効果が得られるとともに、塗布膜を複雑な形状で、さまざまな基材に形成できるSGCNT系水性塗料の開発に取り組んだ。
新開発のSGCNT系水性塗料は、大面積平面への塗布に適したバーコート法や、複雑な形状への塗布に適したスプレー法など、さまざまな塗布方法を選択することができる。また、塗布性、基材の選択性に優れているのも特長である。
開発したSGCNT系水性塗料は、粘度測定の際に、流動性が高い状態を作る高速せん断から、流動性が低い状態を作る低速せん断に切り替えると、すぐに粘度が回復して高くなる特性を持つという。このことは、塗料を高速で動かす塗布作業時には塗料の流動性が高まり、塗料の動きを止める塗布終了時には塗料の流動性が低くなる。つまり、塗布面で塗料の液だれが生じにくく、複雑な形状の基材にも塗布膜を形成しやすい特長を持つ。
研究チームは、開発したSGCNT系水性塗料を用い、バーコート法とスプレー法により塗布膜を形成し、周波数帯域4.5〜6GHzにおける電磁波遮蔽効果を測定した。この結果、いずれの塗布膜でも、測定領域で30dB(99.9%)を上回る電磁波遮蔽効果となった。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.