Imaginationによれば、I6500-Fは、ASIL B(D)の要件を満たすという。“ASIL B(D)”とは、どういう意味なのか。Mace氏は、「I6500-FのIPがSoCに搭載され、製品として顧客に提供されるようになるころまでには、ASIL Dに準拠できるようになっているだろうと予測しているからだ」と説明する。
MIPSチームの機能安全に関する取り組みは、他社との連携なしに進められてきたわけではない。ImaginationとMobileyeは、Mobileyeが最初にADAS(先進運転支援システム)向けSoC「EyeQ4」を開発した当初から、安全性に関する協業関係を構築してきた。EyeQ4は、プロセッサコア「MIPS interAptiv」と、ソフトウェアのセルフコアテスト機能を備えたCPU「M5150」を搭載し、ASIL Bに準拠している。
MobileyeのビジョンSoCはこれまで、専用アーキテクチャを使用しているために閉鎖的過ぎるという点で、競合メーカーや顧客企業から批判を受けてきた。
しかし興味深いことに、ImaginationはMIPS I6500-Fを発表する際、「MIPS I6500-FをベースとしたMobileyeの次世代SoC EyeQ5は、オープンソフトウェアプラットフォームとなる予定である。そのため、顧客企業は独自のアルゴリズムを採用することが可能だ。ハードウェア仮想化などのMIPSアーキテクチャ要素によってサポート可能な性能を実現できる」と主張している。
Mobileyeでエンジニアリング担当シニアバイスプレジデントを務めるElchanan Rushinek氏は、MIPS I6500-Fが発表された際に、報道向け発表資料の中で、「MIPS I6500-FがASIL B(D)に準拠しているという点は、EyeQ5の高い安全性を確保する上で、重要な鍵となる。I6500-Fは、CPUとビジョンアクセラレーターとの間で完全なキャッシュコヒーレンシを確保することにより、ヘテロジーニアスコンピューティングに向けた理想的なプラットフォームを実現できる。それだけでなく、スレッド間通信などの独自機能によって、リアルタイム性能も高められる。MIPSのマルチスレッドCPUは、EyeQの性能や効率、安全性の大幅な向上を実現していく上で、重要な役割を担っている」と述べている。
もしMIPS I6500-Fが、Mobileyeが近々発表を予定しているEyeQ5の成功実現への鍵を握っていると実証された場合、自動車市場の中ではどの企業が、このMIPSの時流に乗ろうとするだろうか。
Bonte氏は、「ルネサス エレクトロニクスとTexas Instruments(TI)が、ライセンシー(ライセンス使用者)に加わるのではないだろうか」と推測する。
一方のMcGregor氏は、懐疑的な見方をしているようだ。「自動車市場は非常に競争の激しい市場であるため、ほとんどの半導体メーカーが、NVIDIAの『Drive PX2』やNXP Semiconductorsの『Bluebox』のようなプラットフォームへと移行している状況にある」(同氏)
McGregor氏は、「プロセッサだけがシステムを作るのではない。アクセラレーターやAIフレームワーク、開発ツールの重要性が高まる中、MobileyeとIntelは既に、これらの大半を手に入れているが、他の企業にとっては、こうしたリソースなしにI6500-Fを活用することは、非常に難しいかもしれない」と説明する。
また同氏は、「I6500-Fや他のプロセッサアーキテクチャを採用する可能性が高いのは、OEMの他、プラットフォームレベルで半導体メーカーと競合関係にある車載システムメーカーなどではないだろうか」と付け加えた。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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