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東北大、スピネル型酸化物材料の原子観察に成功原子配列と電子状態を解明

東北大学材料科学高等研究所(AIMR)の岡田佳憲助教らによる研究グループは、スピネル型酸化物材料の原子配列と電子状態を解明することに成功した。

» 2017年07月05日 10時30分 公開
[馬本隆綱EE Times Japan]

新超電導体の開発やリチウムイオン電池の特性向上に期待

 東北大学材料科学高等研究所(AIMR)の岡田佳憲助教と一杉太郎連携教授(東京工業大学物質理工学院教授)、東京大学の安藤康伸助教(現在は産業技術総合研究所研究員)、渡邉聡教授らの研究グループは2017年6月、スピネル型酸化物材料の原子配列と電子状態を解明することに成功したと発表した。超電導材料やリチウムイオン電池の性能向上につながる研究成果とみられている。

 スピネル型酸化物「LiTi2O4」は、超電導材料や電池材料として知られている。超電導転移温度は13K(−260℃)と比較的高い。ところが、原子レベルで平たんな試料を作製するのが難しく、原子スケールで表面の超電導状態を確認するまでには至っていなかった。リチウムイオン電池材料としても注目されているが、電極表面における原子配列の解析はこれまで行われていないという。

 研究グループは、原子1個を識別できる走査型トンネル顕微鏡(STM)と、薄膜を高品質に作製するためのパルスレーザー堆積装置を連結した複合システムを独自に開発した。この装置を用い、SrTiO3単結晶基板上に、LiTi2O4エピタキシャル薄膜を作製した。作製した試料は大気中にさらすことなく、STMを用いて表面の電子配列を観察することができるという。

STMとパルスレーザー堆積装置を連結した複合システムの構成イメージ図 出典:東北大学

 試料を観察した結果、最表面にはチタン原子が三角格子状に並んでいることや、表面の超電導性が固体内部とは異なっていることなどが明らかになった。三角格子は輝点の間隔が0.6nmであることも分かった。

4Kで観察したLiTi2O4のSTM像。左が広範囲で観察した像、中央はその平たん部を拡大した像、右は三角格子の輝点間隔を示した像 出典:東北大学

 研究グループは、STM像とシミュレーションの結果を比較検討した。この結果、表面がチタンで覆われている場合は、計算と実験の結果が一致した。一方、表面が酸素で覆われている場合には、実験結果を再現できないことが分かった。このことから、観測された輝点はチタン原子であることが明らかとなった。

左は実験と計算から明らかになった表面原子配列の断面図、右はSTM像のシミュレーション結果 出典:東北大学

 今回の研究により、超電導状態の電子状態も明らかにした。実験により表面における超電導ギャップが予想より小さく、コヒーレンス長が予想よりも長いという結果が得られたという。精密な電子状態評価から、表面と内部では超電導ギャップやコヒーレンス長などの物性値が異なることが分かった。

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