社内改革プロジェクトへの抵抗勢力を少しでも弱めるには、とにかく何らかの成果を出すことだ。そう考えた須藤は、「業務の見える化」を社内全体で始めることにした。その第1歩が「業務の棚卸し」だが、須藤たちがこれまでやってきた「業務の棚卸し」とは、まるで違うものだった――。
「“異端児エンジニア”が仕掛けた社内改革、執念の180日」バックナンバー
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第1回 | もはや我慢の限界だ! 追い詰められる開発部門 |
第2回 | 消えぬ“もやもや”、現場の本音はなぜ出ない? |
第3回 | 始まった負の連鎖 |
第4回 | たった1人の決意 |
第5回 | 会社を変えたい――思いを込めた1通のメール |
第6回 | エバ機不正の黒幕 |
第7回 | 450人が去った会社――改革の本番はむしろこれから |
第8回 | 改革は“新しい形のトップダウン”であるべきだ |
第9回 | “不合理さを指摘できる組織”に、それが残った社員の使命だ |
第10回 | 現場の「見える化」だけでは不十分、必要なのは「言える化」だ |
第11回 | 誰もが“当事者”になれ、社内改革の主役はあくまで自分 |
第12回 | 現れ始めた抵抗勢力、社内改革を阻む壁 |
第13回 | 意思決定の仕方を変えて、周りを巻き込む! |
社内改革プロジェクトは、「インフォーマルな場」を取り入れ、より質の高いコミュニケーションを交わしながら進めていくことが重要だ。しかし、プロジェクトへの風当たりはいまだに強く、あからさまな嫌がらせも続いていた。須藤のリーダーシップのもと、一緒に汗水をかいてくれているメンバーも、皆、自社の未来のためと思ってやっているが、「仲間」であるはずの社員から日々、冷たい言葉をかけられることはさすがにつらい。このままだと、会社が変わる前にプロジェクトメンバーが疲弊してしまう。「何とかしなければ……」と須藤は考えていた。
会社の風土、体質を変えることは大事だが、もっと周りから認められるためには、変わったこと、変わりつつあることを示さなければダメだ。具体的な成果が必要だ。そうでなければ、味方も増えない。
ならば、全社的に「見える化」を加速させるのはどうだろう……。
須藤は、少し前に東京コンサルティング(Tコンサル)の杉谷と若菜からヒントをもらっていた「見える化」と「言える化」を改めて思い出していた。
・「見える化」のプロセスに「言える化」を組み込むこと
・「業務プロセス」と「場」が重要であること
須藤は、杉谷と若菜が説明した時の図を持ち出し、じっと見つめた(図1)。
今回の不祥事を招いた要因は、決して業務の複雑化や肥大化だけではないだろう。しかし、社員一人一人が、自分たちに課せられた仕事は何か? その責任を感じ、ちょっとしたことでも手を抜くことなく真摯に業務に向き合っていたら、異常や不正を見落とさないプロセスだったら、自部門だけの業務以外にももっと関心を持っていたら……。
今思えば、こうした詰めの甘さと言うか、小さなほころびが重なり、大きな不祥事を生み出す温床になっていたのではないかと、須藤は思う。余計な波風は立てず、目立たずそつなく日々を過ごしているだけの社員ばかりだ! と腹を立てていた須藤であるが、そんな社員を量産してしまった原因の1つかもしれないと思い始めていた。
プロジェクトメンバーは既に杉谷と若菜から業務プロセスに関するレクチャーを受けていた。そのスタートラインは「業務の棚卸し」であった。「何を今さら……」と初めは少しばかり小ばかにして臨んだのだが、これまでに知らなかった棚卸しの視点、仕事の責任の範囲、いい加減でも何とかなっていた仕事など、これまで自分たちがいかにダメダメであったかをすぐに思い知らされ、須藤たちは杉谷と若菜の話に徐々に引き込まれていった。
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