強誘電体メモリ研究の歴史(後編)〜1990年代以降の強誘電体メモリ : 福田昭のストレージ通信(65) 強誘電体メモリの再発見(9) (2/2 ページ)
1990年代の半導体メモリにおける重要なトピックスに、電源電圧の低下がある。PZTは分極反転に必要な電圧が比較的大きく、低電圧化には不向きだと考えられてきた。そこで登場したのが、タンタル酸ビスマス酸ストロンチウム(SBT)である。1990年代後半には、SBTの研究を手掛ける企業がPZTと対抗するほどの数に膨れ上がった。例えば1997年12月に開催された半導体デバイス技術の国際学会IEDMでは、PZTのメモリとキャパシターに関する発表が3件であったのに対し、SBTのメモリとキャパシターに関する発表が5件もあった。
中期(第2世代)の強誘電体メモリ。左は「1T1C」方式のメモリセルの断面図と回路図。右は記憶容量が4Kビットの強誘電体不揮発性メモリのシリコンダイ写真。出典:NaMLabおよびドレスデン工科大学(クリックで拡大)
しかし、PZTとSBTはいずれも、厚みを200nm以下にまで薄くすると、強誘電性が弱まるという性質を抱えていた。「サイズ効果」と呼ばれるこの弱点のために、これらの材料を使った強誘電体メモリの加工寸法は最小で130nmにとどまってしまう。実用的な記憶容量の最大値は現在のところ、4Mビットから8Mビットである。
興味深いのは一時期、有機高分子の強誘電体メモリにIntelが関わっていたことだ。2000年代の前半に、Intelはノルウェーのベンチャー企業Thin Film Electronics(TFE)に出資して共同研究を実施していた。シリコンのCMOS回路を形成したウエハー上に、有機高分子の強誘電体メモリフィルムを複数枚載せた、ハイブリッドな集積回路を構築することを試みていた。
しかし共同研究は2005年ころには休止されたようだ。その後、TFEは単独で有機高分子フィルムの強誘電体メモリの研究開発を継続した。2009年にはIDタグやバーコードラベルなどに向けた不揮発性メモリフィルムを開発した(関連記事:「注目集める印刷エレクトロニクス、nano tech 2009が開催 」)。印刷技術によって低コストで形成できるのが特徴である。
2015年1月には米国のXeroxがTFEの不揮発性メモリ技術をライセンス導入した(関連記事:「印刷できる不揮発メモリ、IoT市場に成長機会 」)。Xeroxは2016年6月には「Xerox Printed Memory」のブランドで、書き換え可能な不揮発性フィルムの製造を始めた。最大で36ビットのデータを格納できる。
有機高分子の強誘電体フィルムを使った不揮発性メモリ。Thin Film Electronics(TFE)とIntelが共同研究していた3次元ハイブリッドメモリの概念図。出典:NaMLabおよびドレスデン工科大学(クリックで拡大)
(次回に続く )
⇒「福田昭のストレージ通信」連載バックナンバー一覧
PCIe SSDの性能を引き出す「NVMe」
今回はNVMe(Non-Volatile Memory Express)を紹介する。NVMeはストレージ向けのホスト・コントローラ・インタフェースの1つで、PCIe(PCI Express)インタフェースを備えた高速のSSDを対象にした規格仕様である。
STT-MRAMの基礎――情報の蓄積に磁気を使う
次世代不揮発メモリの候補の1つに、STT-MRAM(スピン注入磁化反転型磁気メモリ)がある。データの読み書きが高速で、書き換え可能回数も多い。今回から始まるシリーズでは、STT-MRAMの基本動作やSTT-MRAが求められている理由を、「IEDM2015」の講演内容に沿って説明していこう。
磁気メモリが「不揮発性メモリ」であるための条件
磁気メモリは、記憶したデータを必ずしも安定して保持できるわけではない。今回は、10年以上にわたりデータを保持する不揮発性メモリとして、磁気メモリを機能させるための条件を解説する。
シリコンバレー〜イノベーションを生む気質(1)
ハイテク産業の中心地がボストンからシリコンバレーに移り、今なお成長し続ける理由には、「シリコンバレーの気質」が大いに関係している。ここから複数回にわたり、シリコンバレーの気質を掘り下げていこう。
力任せの人工知能 〜 パソコンの中に作る、私だけの「ワンダーランド」
私はこれまで、人口問題や電力問題、人身事故などさまざまな社会問題を理解するためにシミュレーションを利用してきました。シミュレーションは、AI(人工知能)という概念を飛び越えて、「人間が創造した神」と呼べるかもしれません。今回は、シミュレーションに最適なAI道具の1つとして、「オブジェクト指向プログラミング」を解説します。これは、PCの中に“私だけのワンダーランド”を力任せに作る技術ともいえます。
“時代遅れのIC”で勝機をつかむ中国勢
今回紹介するD2Mのデジタル・フォトフレーム「Instacube」には、中国製のチップがぎっしりと詰まっている。なぜ、これらの中国メーカーはデザインウィンを得たのか。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.