豊橋技術科学大学の後藤太一助教らによる研究グループは、スピン波の位相干渉を応用した論理演算素子を開発し、その機能を実証した。
豊橋技術科学大学の後藤太一助教と慶應義塾大学理工学部の関口康爾専任講師らによる研究グループは2017年8月、磁石が作る波(スピン波)の位相干渉を応用した論理演算素子を開発し、その機能を実証したと発表した。従来の電子回路に比べて、発熱が極めて小さいコンピュータを実現することが可能になるという。
今回の研究は後藤氏らの他、豊橋技術科学大学の金澤直輝特別研究員、高木宏幸准教授、中村雄一准教授、内田裕久教授、井上光輝教授、モスクワ大学のグラノフスキー教授、マサチューセッツ工科大学のロス教授らが共同で行った。
一般的な電子回路は電流を情報キャリアとして用いる。これに対して、スピン波を応用したスピン波回路は電流を流さない。このため、高速動作させても発熱が小さく、情報処理システムのエネルギー消費を抑えることができる、という特徴がある。
後藤氏らは2016年に、磁性絶縁体(イットリウム鉄ガーネット)の線に、2方向からスピン波を入力して1点に集めると、スピン波の位相状態によって「位相干渉」が生じる現象を観測している。
今回はこの研究成果を一歩進め、論理演算を可能とするスピン波回路を開発して、その動作を確認した。具体的には、同じ磁性絶縁体膜をフォークのような形に加工し、全ての演算パターンを1つの素子の組み合せで実現できる論理演算素子を作製した。特に、信号処理に不要なスピン波の発生を抑制するため、導波路は金膜で覆い、スピン波線の幅を狭くすることで、単一波長のスピン波だけが伝わるように工夫した。また、あらゆる方向に伝わる前進体積スピン波を用いることで、フォーク型の配線を可能とした。
今回作製した論理演算素子は、3つの入力端子と1つの出力端子を備えている。この素子では、スピン波の位相情報のみを入力し、演算結果を位相の状態で出力する。この構造としたことで、同一素子を多段化して接続することができるという。
作製した素子は、入力C端子の位相を「0」か「π」に変えると、「NAND(否定論理積)」あるいは「NOR(否定論理和)」のいずれかの機能を選択することが可能となる。しかも、スピン波演算素子は、NAND回路やNOR回路を1つの素子で実現できため、複数個のトランジスタ接続が必要となる従来の電子回路のような遅延がなく、多入力の演算もシンプルな構造で処理することができるという。
研究グループによれば、演算素子が同時に処理できる入出力数を増やすことができ、発熱などを気にすることなく多重処理を実行することができる。また、スピン波は導波材料の薄膜化や電極の微細化によって、波長を短くすることができ、素子のさらなる小型化が可能だという。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.