今回から2回にわたり、二酸化ハフニウム系強誘電体材料を使った強誘電体トランジスタで多値メモリを実現する仕組みについて紹介する。
前回は、新材料である「二酸化ハフニウム系強誘電体材料」を使った強誘電体トランジスタ(FeFET)の研究状況を概観した。
前回でも述べたように、二酸化ハフニウム系強誘電体が備える最大の特長は、10nm前後の微細化が原理的には可能な点にある。10nm前後の微細化が可能であるということは、「単一ドメイン」の二酸化ハフニウム薄膜が実現できることを意味する。
二酸化ハフニウムの薄膜は多結晶である。例えば1mm角くらいの大きさで成膜すると、非常に膨大な数の微小な結晶粒(グレイン)で構成されている。一方、誘電分極をミクロに見ると、「分域(ドメイン)」と呼ばれる非常に微小な領域で分極が発生している。ドメインはグレインよりも小さく、グレインの内部は複数のドメインで構成される。グレイン内部でドメインの向きが揃うことでグレインに分極が生じ、大多数のグレインの分極の向きがそろうことで、薄膜全体で大きな分極が生じる。
ここで二酸化ハフニウム薄膜の寸法を10nm角くらいにまで、一気に縮小することを考えよう。すると、薄膜内部におけるドメインの数は数個、場合によっては1個になる。仮に1個のドメインになった場合、これを「単一ドメイン(シングルドメイン)」と呼ぶ。
次に、二酸化ハフニウム薄膜の形状を長方形にすることを考える。長方形の寸法は、強誘電体トランジスタのゲート電極と同じである。つまり、長方形のゲート電極を有する強誘電体トランジスタを作る。ここで重要なのは、寸法である。ゲート長が20nm程度、ゲート幅が80nm程度の微小なゲート電極を考える。二酸化ハフニウム強誘電体薄膜も、同じ寸法になる。
ここで二酸化ハフニウム強誘電体薄膜が、3つの分極ドメインを有していると仮定しよう。ドメインA、ドメインB、ドメインCである。ゲート電極の長辺方向に、直方体のドメインが3つ、並んでいる。3つの分極ドメインは、シリコン表面に対して上方向か、あるいは下方向に分極する。
3つのドメインで分極の向きがすべてそろっており、分極反転のときも同様であれば、これまで説明してきた強誘電体トランジスタと同様に、1ビットのデータを記憶する1個の不揮発性メモリセルが完成する。
ところが厳密には、3つのドメインが分極反転を起こすゲート電圧は、同じではない。微妙に違う。そこで分極反転を起こすゲート電圧を精密に制御すると原理的には、ドメインA、ドメインB、ドメインCの分極反転を個別に、制御できるようになる。
例えば初期状態が、すべてのドメインが上向きに分極しているとしよう。強誘電体トランジスタのしきい電圧は、高い状態にある。このしきい電圧をVtaとしよう。ここでゲート電圧をわずかずつ変化させていくと、最初に1個のドメインだけで分極反転が起こる。すなわち、強誘電体トランジスタのしきい電圧が下がる。このしきい電圧をVtbとしよう。
さらにゲート電圧を少しずつ変化させていくと、もう1個のドメインで分極反転が起こる。しきい電圧がまた少し下がる。このしきい電圧をVtcとしよう。
さらにゲート電圧をわずかずつ変化させていくと、残る最後のドメインで分極反転が起こる。つまり、3つのドメインすべてで分極が反転したことになる。しきい電圧はさらに下がる。このしきい電圧をVtdとしよう。
このようにして、しきい電圧が異なる4つの状態を、トランジスタに作り出せるようになる。これは、1個のトランジスタに2ビットのデータを記憶できるという意味である。フラッシュメモリのマルチレベルセル(MLC)と、基本的には変わらない。
研究室レベルでは、2016年に3つの分極ドメインを備えているとみられる、二酸化ハフニウム強誘電体トランジスタが試作発表されている。ゲート電圧(プログラム電圧)を2Vから5Vの範囲で細かく変化させることで、しきい電圧をプラス0.5Vからマイナス0.75Vの間で4段階に階段状に変化させた。
(後編に続く)
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