まず、Quick Buck Boosterの応答性は、バッテリー電圧が12Vから4Vに低下した場合のコンバーターの出力電圧(=5V)変動は±100mVと「競合製品の2分の1以下に抑えた」(ローム)という。その結果、競合の昇降圧コンバーターでは、22μF容量の出力コンデンサーが4個必要だったが、Quick Buck Boosterを用いたコンバーターでは「2個の出力コンデンサーで済む」とする。
応答特性の改善は、スイッチング周波数可変型制御など昇圧コンバーター制御にさまざまな工夫を施すことで実現した。「一般的に昇降圧コンバーターは、降圧部と昇圧部が連携して、いったん行う降圧の電圧を決定するため、応答に時間を要する。Quick Buck Boosterでは、降圧部のみで電圧を決定し、昇圧部は降圧部から入力される電圧を単純に昇圧するイメージで高速応答を実現している」(ローム)
昇降圧コンバーターの回路設計の複雑さについては、「降圧コンバーターICに、昇圧ドライバICを付け加えるだけで、昇降圧コンバーター回路に切り替えられる」(同社)という機能により解消する。
「バッテリー電圧の低下は車種や仕様によって異なり、ある車種ではバッテリー電圧がECUの動作電圧を下回り昇圧機能が必要だが、別の車種ではその必要がないというケースはよくある。全て昇降圧コンバーターを搭載すれば対応できるが、昇圧機能は過剰になる。Quick Buck Boosterでは、昇圧ドライバICの有無だけで、回路の設計変更なく、降圧、昇降圧を選択でき、設計が容易なだけでなく部品コストの最適化も図れるようになっている」とする。
ロームでは、開発したQuick Buck Boosterを適用した昇圧機能対応降圧コンバーターICと昇圧専用ドライバICを、2018年夏からサンプル出荷を開始する予定。第1弾製品は車載用途向けの出力電圧5V品で、12Vバッテリーから出力電圧5V(無負荷)時に消費電流8μAという低消費電流を実現し、軽負荷時の効率に優れるなどの特長も合わせ持つ見込み。
ロームは近年、電源IC事業において、さまざまな用途の電源ICに共通して適用可能な基盤技術の開発を強化。既に、より大きな入出力電位差に対応する降圧コンバーターの実現を可能にする超高速パルス制御技術「Nano Pulse Control」や、超低消費電流技術「Nano Energy」を開発し、製品への適用を開始している。Quick Buck Boosterも、Nano Pulse Control、Nano Energyと並ぶ基盤技術の1つとして位置付け、さまざまな電源ICに展開していく方針。
なお、ロームは2018年5月23〜25日に横浜市のパシフィコ横浜で開催される展示会「人とくるまのテクノロジー展」に出展し、Quick Buck Boosterに関する展示を行う。
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