EETJ 環境や安全、情報といった次世代車に求められている技術において、東芝はさまざまな製品群を保有しています。まず、環境面ではどのような技術が強みとなっていますか。
早貸氏 環境性能向上の社会的要請から、現在の車はモーター搭載数が増加しており、小型車でも約50個、大型車に至っては100個超を搭載している。よって、モーター制御は自動車の環境性能を向上するにあたって非常に重要な要素だ。この点においてわれわれは、3相ブラシレスモーター制御とMCP(Multi Chip Package)に特に強みを持っている。
3相ブラシレスモーター制御は、簡単に言ってみればモーターの電流波形をきれいにする技術だ。モーターにきれいな正弦波波形を持つ電流を入力することによって、3相ブラシレスモーターは滑らかに回転し、駆動ロスの減少と静音化にもつながる。
この技術は、東芝コーポレートのユニークな取り組みである「モーター研究所」から生まれた。モーター研究所では、新幹線から洗濯機などの家電製品に搭載する各種モーター技術を先端的に開発しており、この技術はその成果の1つを応用したものだ。
MCPは、ミックスドシグナル製品であるプリドライバーとディスクリートのMOSFETを1パッケージ化した技術。しかし、ただ1パッケージ化するだけでは面白くないので、今まで外付けだった温度や電流のセンス回路や、機能安全に貢献する診断回路を組み込んでいることが特長だ。また、パッケージ全体の熱シミュレーションを行うことで温度センス回路などの設置位置を最適化し、モーター駆動の効率化に貢献している。
30〜50A程度のモーターが利用される電動シートやドア、リアゲートなどのボディー系に有効な技術だ。
EETJ 安全面においても、画像認識プロセッサ「Visconti」やLiDAR(ライダー)の開発などで独自技術を磨かれています。
早貸氏 自動運転の実現には、センシング・認識・判断・制御の各領域をいかに高めていくかがカギとなる。われわれは、センシング領域ではLiDAR技術、認識領域ではViscontiを擁しており、自動運転の実現に貢献する方針だ。
われわれが開発するLiDARは、シリコン光電子増倍素子(SiPM:Silicon Photomultipliers)方式を採用し、長距離と高解像度測定を両立している。測距距離に応じて使用する回路を使い分けていることがポイントで、短距離測定用のT-D(Time-Digital)コンバーター、長距離測定用のA-Dコンバーターを1チップとしたハイブリッド回路を開発した。
2018年2月に開催された「ISSCC 2018」で、このLiDARにより200mを0.125%の精度で測距した結果を発表したところ、多数の好評と引き合いを得ることができた。
Viscontiは、車載に求められるフットプリントの小型化と低発熱、低消費電力で画像認識を実行できるヘテロジニアスマルチコアプロセッサだ。NVIDIAなど、ディープラーニングを活用した画像認識と判断を1パッケージで処理する自動運転向けハイパワーチップを開発する半導体ベンダーが増えてきているが、彼らの製品はSAEレベル4以上の自動運転車への搭載を見据えたものだと考えている。
Viscontiでは、これまで東芝が培ってきたパターン認識技術を活用しており、人の検出では世界最高レベルだ。また、われわれは当面の間、SAEレベル2の自動車が市場のボリュームゾーンとなると考えており、Viscontiはまさにこの領域をカバーしている。将来的には、判断の領域を含めたプロセッサを開発する構想も立てている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.