最近の報道で、Teslaの顧客たちは、FSDオプションをクラウドファンディングのようなものだと捉えているとする比喩があった。これは、適切なたとえだと言えるだろう。顧客たちは、Musk氏のプロジェクトの背景にあるコンセプトに興奮してそれを支持し、成功を期待した。また、そのプロジェクトにはリスクが伴うため、製品の提供が遅れたり、実現しない可能性さえもあるということを、理解して受け入れたのだ。
世界中のあらゆる自動車メーカーが、Teslaの成功を祈っていたに違いない。
Teslaは、エンジニア集団からも多大な尊敬を集めていたようだ。自動車分野のあるエンジニア幹部は、匿名を条件に、「Teslaは、OEMとしては規模が小さい。このため同社は、既存の自動車メーカーとは異なり、ADAS(先進運転支援システム)とFSDを同時に完成させる上で、それぞれに専用の2つの異なるプラットフォームを利用する余裕がないということになる。Teslaが、FSDのアップグレードの料金として数千米ドルを集めたのは、未来の自動車の研究開発に集中するための資金として投入しようという、同社のビジネス上の決断だったのだろう」と述べる。
かなり奇妙ではあるが、このようなロジックも理解できるような気がする。
しかし筆者としては、消費者側に立ってみると、Musk氏がそのような明らかな“おとり商法”で逃げ去るのを、疑問視せずにはいられない。
技術分野に属するEE Timesの読者たちの中で、「Tesla車には既に十分な馬力(処理能力)と冗長性、センサーなどが搭載されており、OTA(Over The Air)ソフトウェアアップデートによって、FSDを実現することは可能だ」と確信していた人はいるだろうか。
米国の市場調査会社であるThe Linley Groupでシニアアナリストを務めるMike Demler氏は、「私は、Musk氏が2016年に主張を展開し始めたころから、懐疑的に見ていた」と述べる。
Demler氏は、「Musk氏がFSDを取り下げた理由として挙げている混乱は、同氏が単にFSDの意味を誤解しているだけだという可能性がある」と述べる。「Tesla車の技術をよく見れば、完全な自動運転が可能であるはずがないということは誰の目にも明らかだ。Tesla車に限った話ではなく、自動運転レベル5を実現する完全な自動運転車は、この世にまだ存在していない」(Demler氏)
またDemler氏は、「Tesla車の初期段階のシステムは、自動運転レベル2を超えられる設計ではなかったため、全く信じられないような内容の主張だった。Teslaの新型チップが、Audiの『Traffic Jam Assist』やCadillacの『Super Cruise』などのように、限られた一連のレベル3機能を超える性能を実現できるのかどうかは疑わしい」と付け加えた。
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