NXPができるか、できないかはさておき、明らかなことが一つある。真に拡張可能で、さまざまなメーカーが異なる層の製品に向けて使えるような信頼できるソフトウェアフレームワークを構築することは、Qualcommが得意とする分野である。
業界観測筋の多くは、QualcommがマルチコアのAIエンジンや「Kryo CPU」「Hexagon」DSPなどで示しているような、AI領域での優れた能力に気づいており、同社が自動運転車市場に本格参入できるだけの十分な力があると確信している。
Qualcommは、Snapdragon Automotive Cockpit Platform以降の戦略については、プレスカンファレンスでは言及しなかったが、QualcommがADASや自動運転車に関する“極秘プロジェクト”は明らかになっている。同社はCESで、自社で設計したAV(Audio Visual)技術のデモや自動運転関連のプロジェクトについて、“選ばれた聴衆”に対してのみ、説明した。
プレスカンファレンスの直後、EE Timesは、Qualcommのオートモーティブ事業でプロダクト/プログラムマネジメントのシニアバイスプレジデントを務めるNakul Duggal氏にインタビューした。
EE Times QualcommがNXPを買収していたら実現できたであろうシナリオについて、皆が推測しているが、それは意味のないことだ。NXPの買収がなくなった今、Qualcommの新しい(自動車関連の)提案はどのようなものか。
Nakul Duggal氏 2002年にGM(General Motors)にモデムチップを供給し始めて以降、Qualcommは自動車重視の企業になったとわれわれは考えている。2015年と2016年の時点で、当社は自動車市場のほとんどの企業に対して、グローバルなモデムソリューションを提供していた。
EE Times それほどの勢力を獲得できた理由は何か。
Duggal氏 自動車メーカーはリスクのないソリューションを求めている。車載モデムチップの提供が、自動車メーカーとの関係性の構築に大いに貢献した。
EE Times それを受けて、車載インフォテインメント(IVI)システムへの進出を決めたのか。
Duggal氏 2013年、Audiからの打診を受けて、当社はNVIDIA以外のセカンドサプライヤーとして、AudiのIVIシステム向けにチップを提供し始めた。それがチャンスとなった。当社は最初の2年間にかなりの時間を割いて、自動車品質と、それが車載ソフトウェアを開発する上で何を意味するのかについて学んだ。
自動車メーカーは、車載ソフトウェアについて、並列処理やリアルタイムの応答性などを求めている。われわれは、自動車メーカーが何を要求しているのかを、かなり苦労して学んだ。不良率DPPM(Defective Parts per Million)の算出の他、仮想化からハイパーバイザーに至るまで、あらゆることをゼロから学んだのだ。そうした全ての経験によって、Qualcommの“DNA”は変化した。
IVIシステムで稼働するソフトウェアは、これまでにないほど複雑になる。中国の自動車を例に挙げると、中国の自動車メーカーのIVIシステムは、計測クラスタ用のQNXからIVI用Linux、中国製アプリ用のAlibaba、さらにはAIまで、あらゆるものを動かす必要がある。そのため、起動が若干遅くなるはずだ。
もし別の自動車メーカーが、さまざまなOSやアプリケーションをサポートするために当社のチップを必要とするならば、重要なのは、ソフトウェアの基盤レイヤーだ。そこがしっかりしていれば、自動車メーカーは、必要なあらゆる機能を搭載できるようになる。
Qualcommは携帯電話事業で数多くの顧客と協業してきたが、その経験が役に立った。
EE Times 現在の自動車業界に欠けているものは何だと思うか。
Duggal氏 自動車メーカーとティア1は、伝統的なビジネスや関係性を今でも維持している。ティア1は、特定の地域向けのソリューションを開発しがちだが、彼らはそれを“プラットフォーム”と呼んでいる。だが実際には、そうしたプラットフォームは、自動車メーカーの要求に合わせてカスタマイズされていく。その結果、“プラットフォーム”として開発されたはずのものは、どんどん断片化していってしまう。そこに、われわれの勝機がある。
EE Times 具体的には、どういうことか。
Duggal氏 われわれのアプローチは、スケーラビリティとソフトウェアフレームワークに焦点を当てている。当社は、自動車メーカーが、差異化を図れるシステムを構築できるようなプラットフォームを提供している。これは、“言うは易く行うは難し”だ。現在、当社は自動車向けソフトウェアを専門に開発しているソフトウェアエンジニアを400人抱えている。われわれにとって、これはかなりの投資だが、必要なのだ。
【翻訳:青山麻由子、編集:EE Times Japan】
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