産業技術総合研究所(産総研)は、金属型と半導体型のカーボンナノチューブ(CNT)を分離するための電界誘起層形成法(ELF法)について、そのメカニズムを解明した。
産業技術総合研究所(産総研)ナノ材料研究部門CNT機能制御グループの桒原有紀研究員と斎藤毅研究グループ長らは2019年2月、金属型と半導体型のカーボンナノチューブ(CNT)を分離するための電界誘起層形成法(ELF法:Electric-field-induced layer formation method)について、そのメカニズムを解明したと発表した。今回の成果を活用することで、従来に比べCNTを分離するためのコストを9割以上も削減でき、時間は半分に短縮することが可能になるという。
CNTは、プリンテッドエレクトロニクスに必要となる高機能インクの材料として注目されている。ところがCNTは、金属型と半導体型が混在して合成されるのが一般的だという。このため、プリンテッドエレクトロニクスに用いる場合、歩留まりや性能のばらつきを抑えるため、金属型CNTを取り除いて半導体型CNTの純度を高める必要がある。
産総研は2010年に、ELF法を開発した。この方法で半導体型CNTの分離に成功している。その純度は99%以上と極めて高い。ただ、ELF法で分離された金属型と半導体型CNTは、いずれも負に帯電しており、単純な電気泳動ではそのメカニズムを説明することができなかった。そこで今回、分散液中のCNTの帯電状態について調べた。
ELF法では、非イオン性界面活性剤を用いてCNTを水に分散させ、それを分離装置に入れる。装置内の電極に直流電圧を印加すると、金属型CNTは陰極側へ、半導体型CNTは陽極側へそれぞれ移動しCNTが分離される。研究グループは今回、ELF法で分離されたCNTのゼータ電位を測定するため、CNT試料の作成方法と測定値の評価手法を新たに開発した。
測定結果から、装置内のpH(水素イオン指数)と界面活性剤濃度は、金属型と半導体型CNT両方のゼータ電位に影響を与えていることが分かった。さらに、半導体型CNTは金属型CNTに比べて、常に大きいゼータ電位である(負の帯電量が大きい)ことが明らかとなった。
一般的に、負に帯電した粒子に電圧を印加すると、陽極側に電気泳動をする。この反作用で、「帯電していない」もしくは、「帯電した電荷が少ない」溶媒や粒子は、陰極側へ移動する電気浸透流が生じるという。
ELF法で分離した半導体型CNTは、比較的大きな負のゼータ電位のため陽極へ移動する。これに対して金属型CNTは、ゼータ電位は負だが、その値は半導体型の約3分の1以下と小さく、電気浸透流の影響で陰極に移動した。
研究グループは今回、ELF法によるCNTの分離プロセスも詳細に調べた。分離装置内では、非イオン性界面活性剤も半導体型CNTと同程度に、負に帯電しており、電気泳動によって界面活性剤の濃度勾配が形成される。また、電極反応により陰極では水酸化物イオンが、陽極では水素イオンがそれぞれ生成されるため、pH勾配ができるという。
これらのデータから、界面活性剤の濃度とpHは、時間経過とともに装置内の位置によっても変化することが明らかとなった。例えば、分離を始めた時や分離中の装置中心部では、ゼータ電位の大きな半導体型CNTが、電気泳動により陽極側に移動する。
分離中の陰極側はpHが高く、界面活性剤の濃度が低い。このため、CNTはより大きなゼータ電位を持ち、電気泳動の影響で半導体型CNTは速やかに陽極側へ移動する。一方、金属型CNTは電気浸透流の力とつり合う位置で層を形成することが分かった。
分離中の陽極側はpHが低く、界面活性剤の濃度は高いため、CNTのゼータ電位は小さくなる。このため、半導体型CNTは陽極側への移動速度が遅くなる。金属型CNTはゼータ電位がほぼなくなり、電流浸透流で陰極側へ押し出される。この結果、半導体型CNTの層は、電気泳動と電気浸透流の力がつり合う位置に形成されるという。
これらの実験結果から、ELF法は金属型CNTと半導体型CNTの帯電量の違いを利用した新しいメカニズムであることが明らかとなった。また、イオン性界面活性剤を用いると、活性剤の電荷が大きく影響し、CNTを分離できないことも分かった。
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