米中におけるハイテク戦争では、2018年末以降、Huaweiが台風の目となっている。しかし、筆者には、3つの疑問がある。本稿では、3つの疑問について論じるとともに、世界のハイテク戦争が、米中二国間の単純な対立ではなく、米国、中国、Huawei3者のにらみ合いの構図になっていることを示す。
中国Huawei Technologiesの孟晩舟・副会長兼CFOが2018年12月1日に、米国の要請により、カナダのバンクーバーで逮捕された。そして、米国司法省は2019年1月28日、Huaweiと孟副会長を、イランとの違法な金融取引に関わった罪および米通信会社から企業秘密を盗んだ罪で起訴した。
加えて米国は、2018年8月13日にトランプ大統領が著名して成立させた「国防権限法2019」により、今年、2019年8月13日以降、米政府機関とHuaweiなどの中国企業5社との取引を禁止する。さらに、2020年8月13日以降は、Huaweiなどの中国企業5社を使っている全ての企業が、米政府機関と取引できなくなる(拙著『米中ハイテク戦争の背後に潜む法律バトル』、2019年1月22日)。
上記のように米国はHuaweiに対して激しい攻撃を行い、世界中から排除しようとしているが、とうとう、Huaweiが反撃に転じた。
まず、Huaweiの孟副会長の弁護団が3月1日、カナダ当局による逮捕前の拘束は、憲法上の権利の「重大な侵害」にあたると主張し、カナダ政府などに対して損害賠償を求める民事訴訟を、ブリティッシュコロンビア州の裁判所に起こした(日経新聞3月5日)。
次に、Huaweiは3月7日、米国の「国防権限法2019」が「公正な競争への参加を妨げ、米消費者の利益を害する」と主張し、米憲法違反だとして、テキサス州の裁判所で米政府を提訴したと発表した(日経新聞3月7日)。
このように、米中におけるハイテク戦争では、2018年末以降、Huaweiが台風の目となっている。しかし、筆者には、3つの疑問がある。
第1の疑問は、本当にHuaweiは、米国が主張するように、米国企業の情報を盗んでいたのか、ということである。
第2の疑問は、本当にHuaweiは中国政府の手先なのか、ということである。
第3の疑問は、なぜ、これほど米国がHuaweiを敵対視するのか、ということである。
本稿では、上記3つの疑問について論じるとともに、世界のハイテク戦争が、米中二国間の単純な対立ではなく、米国、中国、Huawei3者のにらみ合いの構図になっていることを示す。
EE TimesのJunko Yoshida氏は2月6日の記事『Huaweiについて否定的な報道が目立つ4つの理由(翻訳版)』中で次のように言っている。
……Huaweiにかけられた嫌疑は依然として確固たる証拠を欠いていることを認めざるを得ない。Huaweiは人民解放軍と共産党から命令を受けているだろうか。Huaweiは自社のネットワーク機器にどのようなバックドアを設置したのだろうか。こうした疑問の答えはない。
筆者もYoshida氏と同じような疑問を持っていた。そして、時期は前後するが、テカナリエの清水洋治氏は2018年12月17日の記事『“余計なもの”って何? 「Mate 20 Pro」の疑惑を晴らす』で、Huaweiのスマホを分解した結果を次のように報告している。
全ての半導体チップが存在する領域を細かく、1個1個チェックを行ったが、「余計なもの」は全く存在しなかった。“余計なもの”という言い方が適切かどうかは分からないが、余計なものを具体的に教えて欲しいくらいである。
その上で、次のように結んでいる。
なお、2018年は「余計なもの」という情報が一体何を指すのか、それを観察して明らかにすべく、Supermicro(スーパーマイクロ)のサーバを数台買ったり、Huaweiのスマートフォンを急きょ、数台分解したりと、予定外の費用と労力を使ってしまった。願わくは、2019年は「余計なもの」と言うからには、その「余計なもの」を具体的に示していただきたいものである。その場合には弊社にて、通常は有償となるチップの開封と解析を、無償にて引き受けたい! “余計なもの”の正体を、ぜひとも見極めたいのである。
米国は、本当にHuaweiが米国企業の技術を盗んだ証拠をつかんでいるのか? 米国は、その証拠を今に至るまで示していないのである。
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