半導体側に視点を移そう。
組み込みCPUの情報プラットフォームを運営するインスケイプが2019年3月8日に横浜市で開催したセミナー「APS SUMMIT 2019 MAR」では、組み込みAIをテーマにした講演に、エンジニアを中心として抽選で選ばれた約150人が参加するなど、ユーザーからの高い関心が伺えた。
講演では、NVIDIAのように学習まで行える高性能プロセッサも紹介されたが、推論モデルを搭載したマイコンやFPGAなど、半導体ベンダーのさまざまなソリューションが紹介され、組み込みAIの裾野が拡大していることが感じられた。
また、STMicroelectronics(以下ST)は、32ビットの「Cortex-M」シリーズを搭載した「STM32マイコン」にAI推論モデルを実装するツール「STM32Cube.AI」を提供している。Tensor FlowやCaffeなど一般的な機械学習ライブラリを専用コードに変換し、マイコンでの推論実行を可能とするものだ。学習はSTのパートナー企業がサポートする。このため、ユーザーは推論モデルのコードをスクラッチから作成する必要がなく、アプリケーション開発を通常のマイコン開発環境で実施することができる。Armマイコンの特長である低消費電力でのAI実行は、IoTシステムにとって非常に重要なポイントだろう。
こういったAIへの取り組みは複数の半導体ベンダーで見ることができ、AI搭載チップが急速に拡大していくことが予感できる(関連記事:AIチップの半導体への影響)。
現時点では、IoTシステムはクラウド側での処理に注目されがちだが、今後はエッジからクラウドまで連携した仕組みが重要になる。クラウド自体でGAFAM(Google、Apple、Facebook、Amazon、Microsoft)という巨大企業に追い付くことは、正直なところ難しいだろう。だが、エッジでの組み込み技術こそ、日本の技術者の“腕の見せどころ”ではないだろうか。かつてデジタルAV機器や携帯電話で世界を圧倒させた組み込み技術が、日本にはまだまだ残っている。IoTシステムの垂直連携が重要となる局面で、その技術力を活用しない手はない。
ほんの少しだけクラウドやAIの技術を身に着けることで、日本が製造業でエッジAI/エッジIoT技術をけん引できるようになる可能性があるのだ。筆者は大いに期待している。
NEC半導体部門でASIC設計者として勤務後、デジタル製品の技術マーケティングに転身。その後、STMicroelectronicsに移籍し、デジタルTVや有料放送端末(STB)のHD化事業に貢献。東芝半導体部門に移った後は、IoT端末に向けたASSP製品(SoC、近距離無線、マイコンなど)の技術マーケティングに従事。
2018年にIHSマークイットジャパンに移り、現在に至る。映像系放送端末と、クラウド連携を前提としたIoT端末、エッジコンピューティングなどの知識を背景に半導体マーケットでの分析、コンサルティングを行っている。
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