IMW2019では、パナソニックの三河巧氏が、“Neuromorphic computing based on Analog ReRAM as low power solution for edge application”のタイトルで招待講演を行った。その論文の図を使って、Neuromorphicの動作を説明する(図6)。
図6のReRAMの素子は、上部電極と下部電極および、それらに挟まれたTa2O5とTaOXの層から形成されている。この素子の上下の電極間に、電圧を印加すると、Ta2O5層に導電性のフィラメントが形成される。そのフィラメントのサイズは、電圧に応じて変わるため、読み出し電流値をアナログ的に変えることが可能になる。
つまり、Neuromorphicとは、一種のアナログメモリであると言える。このアナログ的な特徴を利用して、集積した素子により深層学習機能を実現し、脳型コンピュータを形成しようとしている。
パナソニックは、このメモリを“RAND(Resistive Analog Neuromorphic Device)”と称し、ロジック半導体に混載して、デジタル家電などに搭載する模様である。その半導体は、台湾のファンドリーUMCが、小規模ではあるが量産しており、「今後は、他社にもRANDのIPを公開する」と三河氏から聞いた。
論文調査をうまく行うと、非常に面白い法則を導き出すことができる。図7は、半導体のトランジスタ周りの技術に関する論文調査の結果である。
例えば、High-k/メタルゲートに注目すると、2000年前あたりから論文数が急増し、約10年たった2008年に、Intelが45nmのプロセッサに量産適用した。
論文が急増し、約10年でピークアウトすると、その技術が量産に使われる。この“法則”は、歪みSi、Ge FET、FinFETにも、おおむね当てはまる(なお、この“法則”を発見したのは、Tech Trend Analysis代表の有門経敏氏である)。
この図に、Neuromorphicの論文数を書き加えてみた。すると、その論文数の挙動は、High-k/メタルゲートの途中経過に酷似していることが分かる。そのため、あと5年もすると、Neuromorphicが爆発的に普及することが期待できるのだ。
ある大学教授の知人が昨年、「もう5年もすると、スマホにNeuromorphicが搭載されているかもしれない」と言った。この傾向を見ると、あながち冗談とは言えなくなってきた。来年、2020年のIMWは、ドイツのドレスデンで開催される。それに参加するのが、今から楽しみである。
1961年生まれ。静岡県出身。京都大学大学院(原子核工学専攻)を修了後、日立製作所入社。以降16年に渡り、中央研究所、半導体事業部、エルピーダメモリ(出向)、半導体先端テクノロジーズ(出向)にて半導体の微細加工技術開発に従事。2000年に京都大学より工学博士取得。現在、微細加工研究所の所長として、半導体・電機産業関係企業のコンサルタントおよびジャーナリストの仕事に従事。著書に『日本「半導体」敗戦』(光文社)、『「電機・半導体」大崩壊の教訓』(日本文芸社)、『日本型モノづくりの敗北 零戦・半導体・テレビ』(文春新書)。
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