かねてArmプロセッサ上でWindowsを動作させる“Windows On Armプロセッサ”は幾度となく取り組まれてきた。今回扱ったLenovoのYoga C630は実際に販売され、通常のWindows PCとして活用できるものである。しかも仕様面では電池駆動時間が長く(あえて詳しい数値は記載しない)また、空冷ファンもなく静音で使用できるものになっている。
ハードウェアとしての内部はほぼ、スマートフォンと同じである。搭載されるRAMも、ともにLPDDR4X(容量も同じ)であり、ストレージメモリもほぼ同じである。
違いは電池容量とセンサー、ディスプレイサイズ、端子である。スマートフォンは今やセンサーの塊と言ってよいほどに多くの種類のセンサーを搭載する。9軸モーションセンサー、圧力センサー、多数のカメラなどである。一方でPCは、搭載センサー種は少ない(3軸モーションセンサーやビデオチャット向けの単眼カメラぐらいだ)。
図4は、Yoga C630に搭載されるスマートフォンには存在しないチップや機能の一部である。スマートフォンはタッチパネルディスプレイを用い、タッチコントロ―ラICや近年では指紋ID認証、顔認証などのデバイスが搭載される。だが、ノートブック型PCでは、これらは搭載されておらず、代わりにタッチパッドやキーボード、各種端子用の制御ICが採用されている。
これらは多くの他のPCにも搭載されるものだ。X86系のPCでも定番のチップである。
すなわち、
Qualcomm Snapdragon 845 Platform+Sensor+Touch Display+Camera
=Android Smartphone
Qualcomm Snapdragon 850 Platform+Sensor+Touch Pad+Keyboard
=Windows PC(Yoga C630)
となる。
スマートフォンとノートブック型PCでありながら、ハードウェアの骨格は一緒で、周辺回路が違うだけだ。これは画期的なことだ。早々にそうなるとは思えないが、現在使っているAndroidスマートフォンも、ハード面から見れば、Windows 10に対応できる可能性があると見ることもできるからだ(ただしSnapdragon 845を採用するスマートフォンに限るが)
マルチOS対応は長らく多くのプラットフォームで取り組まれてきた。1つのシリコンでさまざまな環境に対応できることはメーカーにとっても、ユーザーにとってもメリットが大きい。
まだ本格的な普及には至っていないWindows On Armプロセッサだが、今後の動向や発展を継続して観察していくことにしたい。
ルネサス エレクトロニクスや米国のスタートアップなど半導体メーカーにて2015年まで30年間にわたって半導体開発やマーケット活動に従事した。さまざまな応用の中で求められる半導体について、豊富な知見と経験を持っている。現在は、半導体、基板および、それらを搭載する電気製品、工業製品、装置類などの調査・解析、修復・再生などを手掛けるテカナリエの代表取締役兼上席アナリスト。テカナリエは設計コンサルタントや人材育成なども行っている。
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