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インフルエンザウイルスを高い感度で検出するバイオセンサー福田昭のデバイス通信(196) 2019年度版実装技術ロードマップ(7)(3/3 ページ)

» 2019年08月20日 10時30分 公開
[福田昭EE Times Japan]
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バイオ分子と電気信号の間を結ぶさまざまな原理

 バイオ分子が特定の物質を取り込んだことを検知して電気信号に変換する仕組みはさまざまである。ここからは、いくつかの変換原理を説明していこう。

 最初は「表面プラズモン共鳴(SPR:Surface Plasmon Resonance)」を利用したバイオセンサーである。金(Au)の薄膜表面にバイオ分子を装着したガラス基板の裏面から、単一波長の光を金の薄膜に斜めに照射する。このとき光によって金薄膜表面の自由電子が集団となって振動(プラズマ振動)し、電界を発生させる。特定の反射角の光は、プラズマ振動による電界と共鳴することで、強く吸収される。これが表面プラズモン共鳴である。ここでバイオ分子が目的の物質を取り込むと、金薄膜表面の誘電率が変化し、表面プラズモン共鳴の発生する反射角が変化する。この違いを受光素子で検出し、電気信号に変える。

 次は「水晶振動子マイクロバランス(QCM:Quartz Crystal Microbalance)」を利用したバイオセンサーである。水晶の薄い板の両面に電極を設けて交流の電界を加えると、一定の周波数(共振周波数)の振動が発生する。このような素子を「水晶振動子」と呼ぶ。共振周波数は、水晶振動子の電極上に付着した物質の質量によって変化する。付着した質量が極めて微量な場合、共振周波数の変化は質量の変化に比例する。この原理を利用して電極上の物質の質量変化を測定する方法を、「水晶振動子マイクロバランス(QCM)法」と呼ぶ。ここでバイオ分子を電極表面に装着しておくと、バイオ分子が目的の物質を取り込むことによって電極上の質量が変化し、共振周波数が変化する。この周波数変化を検出することによって、目的の物質を取り込んだ量を把握できる。

 続いて「電気化学インピーダンス測定(EIS:Electrochemical Impedance Spectroscopy)」を利用したバイオセンサーを説明する。EISとは、電解質溶液中に置いた2本の固体電極の間に交流電圧を印加し、交流の周波数を変化させながらインピーダンスを測定する方法である。測定したインピーダンスは、実数成分を横軸、虚数成分を縦軸としたグラフに曲線としてプロットする。このグラフを「ナイキスト線図」と呼ぶ。ナイキスト線図の曲線は、通常は半円を描く。ここで電極表面にバイオ分子を固定しておくと、目的の物質を取り込むことで誘電率が変化し、半円の直径が変化する。直径の変化量から、目的の物質を取り込んだ量を計算できる。

グラフェンFETのバイオセンサー応用に注目

 最近になって急速に注目を集めているのが、グラフェンFET(電界効果トランジスタ)を使ったバイオセンサーだ。グラフェンは、炭素原子が六角形を構成しながら平面状に連なった単原子層の材料である。グラフェンは厚みに対する表面の面積の比率が非常に大きいことから、周囲の環境変化に対して非常に高い感度で性質が変化する。

 グラフェンは電気的には非常に高い移動度を備える。言い換えると抵抗率を極めて低くできる。そこでグラフェンをチャンネル材料とするFETを作成し、グラフェンの表面にバイオ分子を固定することでバイオセンサーに応用する研究が進められてきた。

 グラフェンFETのバイオセンサーでは、例えばグラフェンのチャンネルを電解液(検体液)で覆う。電解液にはゲート電極を接続しておく。ここでバイオ分子をグラフェン表面に装着する。電荷を帯びた目的の物質がバイオ分子につながると、電荷によってチャンネルの電流(ソース・ドレイン間電流)が変化する。この変化量は非常に大きいので、グラフェンFETは極めて高感度なバイオセンサーへの応用が期待できる。

グラフェンFETを使ったバイオセンサーの構造(左)と動作原理(右)。(クリックで拡大)出典:JEITA

 実際に、インフルエンザウイルスを高感度で検出するバイオセンサーが、グラフェンFETとバイオ分子(糖鎖)の組み合わせによって試作されている。グラフェンにつなげる糖鎖を変更することで、ヒト感染型ウイルスを模したタンパク質とトリ感染型ウイルスを模したタンパク質を選択的に検出できることが、実験で確かめられた。現在は研究段階だが、将来が大いに期待できる。

次回に続く

⇒「福田昭のデバイス通信」連載バックナンバー一覧

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