代表的な携帯機器に、スマートフォンとノートPCがある。ここからは、それぞれの放熱部品ついて述べよう。
スマートフォンは容積が小さく、基本的には自然空冷だけが放熱に使える。このため、「ホットスポット(Hot Spot)」と呼ばれる局所的な高温部を最大限に抑制し、発熱をスマートフォンの筐体全体に均一に逃がすことが求められる。
スマートフォンの発熱デバイスには、送信用パワーアンプ、アプリケーションプロセッサ、有機ELパネル、液晶パネル用バックライトなどがある。これらのデバイスによる発熱を素早く均一に逃がす有力な部品が、人工黒鉛によるグラファイトシート(黒鉛シート)である。
自然に存在する物質の中で最も熱伝導率が高い材料はダイヤモンドであり、熱伝導率は2000W/(m×K)に達する。グラファイトシートは、面方向(表面と平行な方向)の熱伝導率がきわめて高い。シートの厚みにもよるが、700 W/(m×K)(厚み100μm)〜1950 W/(m×K)(厚み10μm)と純粋な銅金属の2倍〜5倍の熱伝導率を有する。また薄いものではダイヤモンドに近い熱伝導率を備えている。
さらに、グラファイトシートには軽いという特長がある。純粋な銅金属の比重は8.82g/cm3であるのに対し、グラファイトシートの比重は1〜2g /cm3しかない。
ただしグラファイトシートをスマートフォンに組み込むためには、接着剤が必要となる。この接着剤は一般に熱伝導率が低い。接着剤をなるべく薄くするといった工夫が求められる。
ノートPCの放熱部品には、既に述べたように空冷ファンがある。ただし空冷ファンだけでは、騒音やコストなどの課題が無視できない。そこで自然空冷だけで放熱を完了させる、あるいは空冷ファンを小さく静かにする、といった目的で別の放熱部品を使う。代表的な放熱部品は、「ヒートパイプ(Heat Pipe)」と「ベーパーチャンバー(Vapor Chamber)」である。
ヒートパイプとベーパーチャンバーは同様の原理によって熱を伝える。いずれも内部に液体を封止しており、高温部と低温部の距離に相当する長さを有する。高温部で液体が蒸発することによって熱を吸収し、蒸発によって発生した気体が部品内部を移動する。そして低温部で気体が熱を放出して液体に変わる。液体は部品内部を毛細管現象によって高温部へと移動する。そして再び、高温部で気体となる。このサイクルを繰り返す。
ヒートパイプは金属の管状、ベーパーチャンバーは金属の平板状をしている。両者は競合する部品ではなく、ヒートパイプとベーパーチャンバーを組み合わせた放熱ユニットとしてノートPCに組み込むことが少なくない。
(次回に続く)
⇒「福田昭のデバイス通信」連載バックナンバー一覧
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.