HailoのCEOであるOrr Danon氏は、「ソフトウェアは、潜在的な懸念材料の一つだ」と指摘する。
「私は何年もの間、ソフトウェア分野に携わってきたが、いつも懸念しているのが、ハードウェアレベルでは良く見えても、現実の開発シナリオでは実現不可能とみられるアイデアについてだ。現状もこれに当てはまるというわけではないが、重要な懸念事項の一つではある」(同氏)
Hailoは最近、6000万米ドルのシリーズB投資ラウンドを完了し、その一部は「Hailo-8」エッジAIアクセラレーターチップのソフトウェア開発に費やされる。同アーキテクチャは、演算、メモリ、制御ブロックを組み合わせたもので、個々の要件に応じて、隣接するブロックをニューラルネットワークの異なる層にソフトウェアで割り当てている。
Danon氏は、「新しいコンピューティングアーキテクチャを、脳の特定の部分を模倣することに制限すると、ボトルネックが発生する可能性がある」と述べている。同氏はこの問題を、性能面でのメリットよりも重大だと考えている。Danon氏は「イノベーションや大幅な改良を実現したければ、大胆な手法を採用することも必要だ。そういった意味で、私はニューロモーフィックチップに期待しているが、まずは懸念点をつぶすことから始めないといけない」と続けた。
GraphcoreのCEOであるNigel Toon氏は、同社のAIアクセラレーターは、さまざまな業界向けに設計されていると説明した。「われわれは、ニューロモーフィックチップを手掛ける企業と、必ずしも競合しているとは考えていない。これらの企業は、エッジ向けとして、低消費電力でセンサーアプリケーションに近いところを開拓しようとしている。これらのアプリケーションには、従来の方法で構築されたニューラルネットワークの方が適しているかもしれないが、われわれは大規模なクラウドベースの学習や、大規模に展開する推論システムをターゲットとしている」(Toon氏)
ニューロモーフィックコンピューティングが直面する課題については、他のCEO同様、Toon氏も「とにかくソフトウェアだ」と繰り返した。「どのようなプロセッサを作るにしても、課題はソフトウェアである。興味深いプロセッサを開発して、その後、どうやってプログラミングするかを考える人が、あまりに多い。だが実際には、まずはどうプログラムするかを考え、それを効率的にサポートするプロセッサを構築する必要がある。ソフトウェアプログラミングのアプローチを理解し、そのためのプロセッサを構築しなければならないのだ」(同氏)
Toon氏は「最終的には、ニューロモーフィックは研究としては興味深いが、シリコンで効率的なプロセッサを構築するというものではないかもしれない」と述べ、ニューロモーフィックコンピューティングの手法と相乗効果を生み出せる可能性のある技術として、分子コンピューティングを挙げた。分子コンピューティングは、DNAなどの生体分子の化学反応を演算処理に応用する、新しい分野である。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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