東北大学金属材料研究所の谷村洋助教と市坪哲教授らは、光相変化材料に光レーザーを照射したとき、「非熱的な状態」となる極めて短い時間(寿命)を正確に測定することに成功した。
東北大学金属材料研究所の谷村洋助教と市坪哲教授らは2020年6月、光相変化材料に光レーザーを照射したとき、「非熱的な状態」となる極めて短い時間(寿命)を正確に測定することに成功したと発表した。高速作動する新たな光メモリの原理解明などにつながるとみている。
DVDやBlu-rayディスクなどの記録面に用いられる「光相変化材料」は、時間幅が約100フェムト秒というパルスレーザーを照射することで、「共鳴結合」と呼ばれる特殊な電子秩序により、数ピコ秒という極めて短い時間で、結晶相からアモルファス相に変化することが分かっている。ただ、この過程についての詳細な機構は十分に解明されていなかったという。
研究チームは今回、テルル化鉛(PbTe)を対象に、フェムト秒レーザーを用いたポンプ・プローブ分光法を活用し、光励起後の透過率などについて過渡的な変化を調べた。実験では、レーザーパルスを2つに分離した。1つの光パルス(ポンプ光)で物質を光励起、もう1つの光パルス(プローブ光)で光励起状態にある物質の反射率や透過率を測定した。今回は、非線形光学効果によりプローブ光を白色光パルスへと変えたことで、従来に比べ極めて幅広いエネルギー領域における物質の応答を観測することが可能になったという。
実験結果から、極めて短い時間に物質内で起こる電子的・原子的な変化を追跡することが可能になった。試料の透過率とその温度依存性を測定した結果、試料温度が高くなっていくと、可視光は通過しやすくなるのが分かった。この現象は、温度上昇に伴って原子振動が増大し、共鳴結合が弱まることを示したものだという。
さらに研究チームは、ポンプ・プローブ分光測定で得られた結果を分析した。光照射によって電子温度が格子温度より高い「非熱的な状態」となった試料が、電子温度と格子温度が一致する「熱的な状態」に緩和するまでの時間は、約12ピコ秒であることが分かった。
この解析手法を用いれば、光相変化材料が高速でアモルファス化する過程について、「熱的な条件下で進行する」のか、「非熱的な条件下で進行する」のかを決めることが可能になるという。さらに、光励起の効果で共鳴結合が崩壊すると同時に、「特殊な原子振動が発生し、それが共鳴結合の再形成を阻害する」という機構があることも明らかにした。
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