DXには、従来システムが介在しなかった業務や手続きをシステム化することのすべてが含まれる。例えば会議を行うためにメンバーが会議室に移動するのではなく、企業文化/風土を変革し、モビリティ機能を使ってWeb会議に切り替えることは、DX化の一環と言えよう。
半導体メーカーの例を挙げれば、ルネサス エレクトロニクスでは「My Renesas」、ロームでは「My ROHM」など、ユーザーがこれに登録することで、ツール製品などのダウンロードサービスやメールニュースなどの各種サービスが提供される仕組みになっている。ここまではほとんどの半導体メーカーが行っているが、中には、ユーザーがある資料をダウンロードした事実をトリガーに、その資料がなぜダウンロードされたのか、具体的な商談に発展しうるのか、アプリケーションは何か、スケジュール、商談規模はどれくらいか、競合は誰か、といった内容を分析してユーザーにアプローチする、という作業を徹底している半導体メーカーも存在する。これはマーケティング活動のDX化、ということができよう。
また半導体商社の中には、自分たちが取り扱っている商品を紹介するために「オンライン展示会」を開催している例がある。元々通常の展示会に出展する予定だったが、非常事態宣言の発令で展示会が中止になり、ネット上のオンライン展示会に切り替えたそうだ。展示企業のウェビナーも同時に行うことで、出展社からも訪問者からも非常に好評だった、とのこと。このような成功事例は、今後の大規模な展示会の在り方を大きく変える可能性を秘めているのではないだろうか。
DXの内容は非常に多岐に渡るので、日系企業各社のDX化がどのように推進されているか、興味のある方は、電通デジタル社が発表した「日本における企業のデジタルトランスフォーメーション調査(2019年度)」が参考になるのではないかと思う。
これによれば、DXに着手している日系企業は70%で、取り組み内容としては、データ活用戦略の策定や組織/人材開発などが増加し、より中期的な視点でDXに取り組む傾向が見られるとしている。
この現状をポジティブ/ネガティブ、どう評価するかは意見が分かれるかもしれないが、米国の知人によれば、
「米国ではDXという単語はあまり使われない」
「IoT、AIなど、それぞれのキーワードに対するデータや情報はニーズがあるが、DXについて議論されることはない」
とのことで、DXという単語を気にしているのは日本だけではないか、というのだ。
合理性、利便性を追求する彼らにしてみれば、どんどん使い勝手が進化するシステムや機能を仕事に取り入れるのは当たり前で、DXなどという具体性に欠ける単語を持ち出して議論する必要などない、ということかもしれない。
筆者としては、何でもかんでも米国のまねをすることが良いとは思わない。だが、われわれ日本人、日系企業にとってDXを推進することは絶対に必要であり、日本人に合ったやり方で進めることが重要だと思う。今回のコロナ騒ぎでは、日本を含め世界中の人々が痛手をこうむっているが、転んでもただでは起きない、むしろこれをキッカケに各社がDXを推進するべきだということを、改めて主張させていただきたい。せめて、この点で「日本は周回遅れだ」などと言われないようにしたいものである。
慶應義塾大学大学院にて管理工学を専攻し、工学修士号を取得。1985年に東京エレクトロン入社。セールスエンジニアを歴任し、1992年にデータクエスト(現ガートナー)に入社、半導体産業分析部でシニア・インダストリ・アナリストを歴任。
1996年にBZW証券(現バークレイズ証券)に入社、証券アナリストとして日立製作所、東芝、三菱電機、NEC、富士通、ニコン、アドバンテスト、東京エレクトロン、ソニー、パナソニック、シャープ、三洋電機などの調査・分析を担当。1997年にABNアムロ証券に入社、2001年にはリーマンブラザーズ証券に入社、やはり証券アナリストとして上述企業の調査・分析を継続。1999年、2000年には産業エレクトロニクス部門の日経アナリストランキング4位にランクされた。2004年に富士通に入社、電子デバイス部門・経営戦略室・主席部長として、半導体部門の分社化などに関与した。
2010年にアイサプライ(現IHS Markit Technology)に入社、半導体および二次電池の調査・分析を担当した。
2017年に調査およびコンサルティングを主務とするグロスバーグ合同会社を設立、現在に至る。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.