モバイル通信業界が5G(第5世代移動通信)への移行を検討し始めたとき、初期の重要なアプリケーションの一つと考えられていたのは放送事業だった。しかし、簡単に進むと予想されていた放送事業への5Gの展開は、まだ本格的な段階に至っていない。
モバイル通信業界が5G(第5世代移動通信)への移行を検討し始めたとき、初期の重要なアプリケーションの一つと考えられていたのは放送事業だった。5Gは、屋外での放送だけでなくスタジオでも利用できることから、コンテンツの配信と制作の両方に等しく適用できると期待されていた。しかし、簡単に進むと予想されていた放送事業への5Gの展開は、まだ本格的な段階に至っていない。
欧州放送連合(EBU:European Broadcasting Union)の技術イノベーション部門で配信とプラットフォーム、サービスの責任者を務めるPeter MacAvock氏は、「5G展開の方向性はいくつか考えられるが、全体的に見ると、5Gはメディアコンテンツの有意義な配信に向けた準備が整っているというより、補完的なアプリケーションという位置付けにある」と米国EE Timesに語った。
同氏は、「5Gはこの分野のほとんどの側面に対して非常に大きな可能性があるが、この業界では、現実的なタイムスケールが求められる。放送業界の一部の人間は、性能が短期間で向上するという非現実的な期待を抱いてきたし、現在もそう期待している」と述べている。
EBUは、70年近くにわたって公共部門メディア(PSM)団体の代表的な存在で、100以上の放送団体が正会員になっており、通信面とメディア制作に関する課題と両方に焦点を当てた数多くの技術プロジェクトを推進している。
MacAvock氏は、「後者に対処することは、あまり魅力的ではないかもしれないが、放送事業全体の“経験”の有効性にとって前者と同様に重要である」と述べている。
同氏は、「コンテンツ配信の経済性についても真剣に議論する必要がある」と強調した。
MacAvock氏はこれまで、5Gが地上デジタルテレビ(DTT:Digital Terrestrial Television)に取って代わる可能性は低いと主張してきた。同氏はその理由として、「後者の経済性が何年もの時間をかけて明らかになり、改善され、完成されてきた一方で、セルラー通信を利用したマルチキャスト開発の試みはまだ成功していない」と述べている。
同氏はまた、「5Gは主流の通信分野以外の垂直市場を受け入れるように設計されているという点で、放送(およびその他の)分野にとって、これまでの通信技術とは異なる特別な存在である」と指摘している。
実際、EBUと放送業界は、3GPPに何度も陳情して、5Gが放送業界のニーズと要件に確実に対応したものになるように活動してきたという。
3GPPの「Release 14」では、初めて放送業界への本格的な歩み寄りが見られた。Release 14には、放送事業者を対象としたeMBMS(進化したマルチキャストマルチメディア配信サービス)が含まれており、無料衛星放送(FTA:Free-to-Air)の受信が可能であることやSIMフリーデバイス、HTHP(High Tower High Power)トランスミッターでの運用が可能なモードに対応していることなど、放送事業者向けの機能も盛り込まれている。
5Gに関するブレークスルーは2018年初頭の「Release 15」で多く規定されたが、本当に重要な“LTEベースの5G地上波放送”(LTEコアネットワーク上に構築される5G地上波)は、「Release 16」で最終的に決定される予定だ。ただし、これは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で遅れている。
2021年半ばに予定されている「Release 17」では、より汎用性の高い5Gコアを使えるようになる。
【翻訳:滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
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