物質・材料研究機構(NIMS)は、二次元層状物質を用いた光多値メモリ素子を開発した。照射するパルス光の強度によって、電荷蓄積量を多段的に調整することができる。
物質・材料研究機構(NIMS)は2020年8月、二次元層状物質を用いた光多値メモリ素子を開発したと発表した。照射するパルス光の強度によって、電荷蓄積量を多段的に調整することができる。
開発したメモリ素子は、二硫化レニウム(ReS2)や六方晶窒化ホウ素(h-BN)、グラフェンを積層した構造である。各層はそれぞれ、トランジスタチャネル、トンネル絶縁層、フローティングゲートとして機能する。この素子に短いパルス電圧を印加すると、グラフェンに電荷(正孔)を蓄積し、情報を記録することが可能となる。
素子を形成する主な材料は、全て二次元層状物質である。このため、異なる材料が接する界面は原子層レベルで平たんとなっている。その上、格子欠陥も極めて少なくリーク電流を抑えることができ、信頼性も高いという。
ReS2は、パルスレーザー光で電子と正孔の対を励起させやすく、その数も光の強度で制御することが可能である。グラフェン内に蓄積されている正孔と、負の電荷(電子)を再結合させたら、グラフェン内の電荷量は段階的に減少した。この時のドレイン電流量を計測すると、照射する光の強度に応じて、「L1」から「L4」まで4段階に減少していることが分かった。
研究チームは、光の強度を利用できた理由を2つ挙げた。1つは、「ReS2は層数にかかわらず、常に直接遷移型半導体である」ことだ。これによって、「光の吸収と電荷の励起」「トランジスタチャネル内での電荷移動」「グラフェンへの定量的な電荷注入」といった過程を同時に達成することができたという。もう1つは、「ボトムゲート型の素子構造」としたことである。これによって、チャネルへの光照射が行えるようになり、光と電圧を使い分けながら、記録の書き込みや消去、読み出しが可能となった。
研究成果の応用分野については、多値メモリ素子の他、光インターコネクションや光ロジック回路、超高感度光センサーなどを想定している。今回は、転写法と呼ばれる技術で多層構造の素子を実現した。今後、大面積化に対応できれば高集積化にもつながるとみている。
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