こんにちは、江端智一です。
今回は、(1)量子論に”ただ乗り”する不愉快な宗教団体、(2)「量子もつれ」に関係する「量子の非局所性」についての量子論100年の論争のプロセスとその内容、(3)2量子ビットを、2つの量子井戸と電子を使って実現する方法および、(4)量子コンピュータでの「量子もつれ」の作り方、の4点について、お話をしていきたいと思います。
さて、この連載に関して、私は量子コンピュータや量子論について、(これまでにはないほどの膨大な)資料に目を通しています。しかし、同時に、結構な頻度で、私を不快にさせる情報も釣り上げています。
宗教団体関係です。
量子論と絡めた宗教論やスプリチュアル(って言うんですか?)を論じるWebサイトや書籍、果ては大学院の博士論文に至るまで、さまざまな資料が引っ掛かってきて、鬱陶(うっとう)しいことこの上もありません。
以前、担当編集のMさんは、編集後記で「当然、江端さんなら盛大に『せせら嗤う』でしょう」と書かれていましたが、もう、『せせら嗤う』状況を越えて、『真面目に調べてみるか』という気になってきました。そこで、今回、これに着手してみました。
まず、前提として、量子論と宗教の間には、本質的になんの関連性もありません。
百億万歩譲って、関連があったとしても、量子の世界の振る舞いは、私達の日常に1ナノメートルたりとも影響を与えるものではありません(量子コンピュータは、量子の性質を利用して動くことが『期待されている未来の計算機』です)。
まっとうな宗教団体は、量子の話を持ち出したりしません。そのナンセンスさや、無意味さを分かっているからです。
比して、頭の悪い ―― 特に頭のイカれた教祖と、それを信奉する無知性な信者からなるカルトな宗教団体に、この傾向が顕著に見られます。
なぜ、これらの頭の悪いカルト宗教団体は、これらの量子論に”ただ乗り”しようとするのか ―― それは、量子状態の物理現象が、日常で観測からは「説明ができない」「非常に気持ちの悪い」現象であるので、宗教論としての”理”を説くだけの知力のない教祖にとって、大変都合の良いものだからです。
そもそも、宗教(≠神、超越者)というのは、極めて論理的で、合理的で、科学的(仮説→観測→実験のプロセスが組込まれている)ですらあります。”理”で論じられないものが、千年のオーダで生き残れる訳がないのです*)。
*)そういう観点から、この本は本当に面白かったです。お勧め致します。
とりあえず、量子論に”ただ乗り”している宗教関連のページ数と書籍数を、Google数とAmazonの検索エンジンで調べてみました。
その多さに、唖然としました。私は国内(84万件)しか見えていなかったのですが、英語圏内になると、ざっと4000万件を突破しています。書籍数も含めて考えると、日本は、まだマシな方なのかもしれません。
次に私が気になったのは、彼らが量子論をどの程度理解した上で、持論を展開しているか、ということでした。
私が着目した観点は、2つ。「(1)観測によって確定する量子の性質=量子の重ね合わせ」と、「(2)量子の非局所性 = 量子もつれ」です。
宗教論に、量子論の内容を絡ませてくる以上「(1)量子の重ね合わせ」くらいは理解しているだろうと考えました。ですので(1)よりも、はるかに難しい「(2)量子もつれ」という”言葉”にたどり着けているかどうかで判定してみました(日本語ページのみ)。
差はあったものの、それでも3.4%〜13.3%という低い値でした。もし私が、カルト宗教の教祖であれば、「量子の重ね合わせ」より、もっと強力で強烈な非日常的現象である「量子もつれ」を使うはずです。ここから導かれる仮説は「彼らは量子論を”論”として理解していない」ということです。
最後に、頭の悪いカルト宗教団体が、実際にどういう内容で量子論を教義に取り込んでいるかの一例を紹介します。
上記の内容については、もはや、バカバカしくて論じる気にもなれませんが ―― 逆に、私は希望が湧いてきました。なぜなら、私もそろそろ会社から定年で追い出される時のことを、真面目に考えなければならないフェーズに入ってきているからです。
日常世界で顕在化しない量子現象を、テキトーに教義に組み込んで、知性の高くない信者を取り込み、彼らのお布施で老後の生活を担保する ―― 「江端教*)の立ち上げ」が私のスコープに入りつつあります。
*)「シュレーディンガー教」、とか、「量子猫(0猫、1猫)教」とかでもいいかも。
*)編集担当M:「0猫1猫教」に1票です。
つまるところ、バズワードの中でも、特に量子論に関わる各種のバズワード(“量子コンピュータ”、”量子の重ね合わせ”、”量子もつれ”等)に関して言えば、
の者によって、これらのバズワードが濫用(×乱用)される傾向が高い、ということが言えそうです。
では、今回の「バズワード批判」はここまでとして、本論に入りたいと思います。
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