さて、ここから今回の本論「2量子ビット/ゲート」についてお話したいと思います。
以前、1量子ビットゲートの時に登場させた、1量子ドットビットを実現する、量子井戸の説明をしました(関連記事:「量子コンピュータよ、もっと私に“ワクワク”を」
基底状態の電子(通称”0猫”)と、第1励起状態の電子(通称”1猫”)が、半導体の井戸の中の左右に、確率50%で存在する1量子ビットです。
で、この量子井戸に対して、ラビ振動を有する電磁波の照射を行うことで、1量子ビットを制御することができることは、「量子ビットを初期化する 〜さあ、0猫と1猫を動かそう」で説明しました。
2量子ビット/ゲートについても、量子井戸で説明します(というか、江端が説明可能なデバイスって、この量子井戸ぐらいしかないので)。
2量子ビット/ゲートでは、「井戸を2つ掘って、量子ネコを2匹(“0猫”と”1猫”)から、4匹(“00猫”、”01猫”、”10猫”、”11猫”)に、増量させます。
2量子ビットのデバイスに関する資料は、(1量子ビットに比べると)ものすごく少なくて、本当に困っていたのですが、「14日で作る量子コンピュータ」(遠藤理平/2020年)だけは、2量子井戸の実現方法が具体的に記載されていました。
私、数式を数式のまま理解することは、からっきしダメなのです。しかし、それがプログラムで記述されて、実際の数値に落し込めれば理解ができるという現場系(ガテン系)のエンジニアです。
ですので、この本(以下”14日本”と称呼させて頂きます)を読む度に、『私のために書いてくれたの?』と目がウルウルとしてきます。
まあ、それはさておき。
それでは、4状態の量子猫が、井戸に鎮座している状態を図示してみます。
こんな感じで、2量子ビット(ここでは、2量子ドットビット)が実現されることになります。
で、この2量子ビットをどのようにコントロールするかというと、やはりこちらも、1量子ビットと同様に、電磁波のπパルスの照射時間で制御します。ただ、周波数(角速度)は超高速で、その照射時間も超短時間であり、そのコントロールの難しさは、1量子ビットよりさらに困難なものとなっています。
[Tさんツッコミ!]第2と第3励起状態に共鳴したπパルスを照射することで、CNOTが実現されるということですね。
同じ内容のラビ振動の照射を行うことで、2状態の電子猫の状態を行ったり来たりさせることができます。
さて、今回は2量子ビットを使う2量子ゲートの中でも、もっとも有名なCNOT(制御NOTゲート)を紹介します。これは、前半で簡単に説明した「量子もつれ」を作り出すのに必須の2量子ゲートであり、また、前回のコラムでTさんから、以下のようなツッこみを頂いていたためでもあります。
[Tさんツッコミ!]CNOTゲートなどの2量子ビットゲートは、IF-THENの量子ビット版に対応していると考えることもできませんか? 制御ビットが0か1かで、標的ビットにNOTをかけるかどうかが切り替わります。
なるほど ―― 制御ビットq[0]に”1猫”をセットして、「はい、息を止めて〜、バシャ!」という、レントゲン撮影のように、ラビ振動の電磁波照射をすれば、標的ビットq[1]の猫が入れ替わります。しかし、q[0]に”0猫”をセットすれば、q[1]の猫は変化しません ―― これは、量子ゲートで、”if〜then〜”が実現されていることを示しています。
このCNOTゲートの存在によって「量子コンピュータ」は、確かに「コンピュータ」であると言えます。”if〜then〜”がない計算機は、単一目的の演算器に過ぎませんから。
では、今回のメインであるところの、量子コンピュータにおける「量子もつれ」の作り方のお話に入ります。
「量子もつれ」は、前回説明したHゲート(アダマールゲート)と、CNOTゲートを以下のように組み合わせることで実現されます。
順を追って説明します。最初の状態では、第1励起状態(×基底状態)の”00猫”がいるだけです。しかし、この”00猫”を、アダマールゲートに放り込むことによって、”00猫”と”10猫”が、共存する状態になっています。
もし、アダマールゲート通過後の、この井戸を観測できたとしたら、右側の井戸の猫(1ビット目の猫)だけが、ジタバタ動いている(あるいは両方が、うっすら透過して)見えるハズです。
そして、最後にCNOTゲートを通過することで、 “00猫”と”11猫”が確率50%で出てくる電子猫が出てきます ―― が、
ぶっちゃけ、私にとっては、そんなことはどーでもいいのです。
問題は、なぜこのようにして生成された2量子ビットが「特別」であるか、すなわち「2つの量子ビットのうち、どちらの状態を観測すれば、その観測結果に応じて、もう片方の量子ビットが確定する」という不思議な(気持ちの悪い)量子ビットになっているか、ということなのです。
いろいろ調べたのですが、私の頭でなんとか理解できた内容は、”14日本”のP.209ページに記載されていた、「量子もつれ(量子エンタングルメント)の生成方法」です。以下に、私なりの理解を記載させて頂きます。
(ここから)
仮説:2つの量子が「もつれていない」、つまり、単なる「重ね合わせ」だけで存在しているなら、
は、「重ね合わせ」の式でだけで表現できるはずである。
すなわち、
X猫 = x0 0猫 + x1 1猫
Y猫 = y0 0猫 + y1 1猫
となる。
これまでのように「重ね合わせ」の式のまま展開すると
XY猫 = x0 y0 00猫 + x0 y1 01猫+x1 y0 10猫+x1 y1 11猫
となるはずである。
検証:今, XY猫 = 1/√2 (00猫 + 11猫)であるから、これを当てはめると、x0 y0 = x1 y1 = 1/√2 , x0 y1 = x1 y0 =0になる。しかし、そのようなx0、x1、y0、y1は、存在しない(実際に調べれば明らか)。
結論:これまでの連載で散々使ってきた量子計算のかけ算(テンソル積)を、どんなに複雑に使い倒したとしても、
は、絶対に作り出せないということである。
これこそが、一方の量子の状態に、他方の量子の状態が、ズルズルとひっぱられてしまうことの証明、すなわち「量子がもつれている」ということである。
[Tさんツッコミ!]このため、よく量子もつれ状態は、「因数分解できない状態のこと」と説明されます。
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