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Everspinが3世代にわたって開発してきたMRAM技術の変遷福田昭のストレージ通信(195) アナリストが語る不揮発性メモリの最新動向(22)

今回は、最も多くの出荷実績を有するMRAMベンチャーであるEverspin Technologiesについて解説する。

» 2021年04月27日 10時30分 公開
[福田昭EE Times Japan]

MotorolaからFreescale、Everspinと続いたMRAM開発

 フラッシュメモリとその応用に関する世界最大のイベント「フラッシュメモリサミット(FMS:Flash Memory Summit)」が2020年11月10日〜12日に開催された。FMSは2019年まで、毎年8月上旬あるいは8月中旬に米国カリフォルニア州サンタクララで実施されてきた。COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の世界的な大流行(パンデミック)による影響で、2020年のFMS(FMS 2020)は開催時期が3カ月ほど延期されるとともに、バーチャルイベントとして開催された。

 FMSは数多くの講演と、展示会で構成される。その中で、フラッシュメモリを含めた不揮発性メモリとストレージの動向に関するセッション「C-9: Flash Technology Advances Lead to New Storage Capabilities」が興味深かった。このセッションは4件の講演があり、その中でアナリストによる3件の講演が特に参考になったので、講演の概要をご紹介する。

 なお講演の内容だけでは説明が不十分なところがあるので、本シリーズでは読者の理解を助けるために、講演の内容を適宜、補足している。あらかじめご了承されたい。

 本シリーズの第10回から、技術調査会社TechInsightsでシニア技術フェローをつとめるJeodong Choe氏が「Technology Trend:NAND & Emerging Memory(NANDフラッシュメモリと次世代メモリの技術動向)」と題して講演した内容を説明してきた。前回(第22回)から、代表的な次世代メモリである磁気抵抗メモリ(MRAM)の製品化事例を解説している。前回はMRAM開発ベンチャーのAvalanche Technologyが開発したスピン注入型磁気抵抗メモリ(STT-MRAM)を米国ルネサス エレクトロニクスが販売している事例を取り上げた。

講演のアウトライン。3D NANDフラッシュの開発ロードマップと要素技術、次世代メモリと埋め込みメモリの開発ロードマップなどを解説する。出典:FMS 2020の講演「Technology Trend:NAND & Emerging Memory」の配布資料(クリックで拡大)

 今回は、Everspin Technologies(以降はEverspinと表記)を解説する。同社は最も多くの出荷実績を有するMRAMベンチャーである。もともとは大手半導体メーカーMotorolaの半導体部門がMRAMを研究していた。Motorolaの半導体部門が分社してFreescale Semiconductor(以降はFreescaleと表記)となり、2003年には4Mビットの試作チップを開発し、評価用サンプルの出荷を開始した。2006年7月には、4MビットMRAMを製品化して量産を始めている。

 2008年には、FreescaleのMRAM事業部門がEverspin Technologiesとして分離独立した。これが現在のEverspinである。

スピン注入と垂直磁気記録で高密度化

 Everspinはこれまで、3世代のMRAM技術を開発してきた。最初のMRAM技術(第1世代)は、「トグルMRAM」と呼ばれる。MRAMが初めて製品化された世代でもある。外部磁界(磁界発生用配線)によって記憶素子である磁気トンネル接合(MTJ)の磁化方向を回転させることでデータを書き換える。磁界が水平に回転するので一定の面積を必要とする、外部磁界発生用配線を必要といった制約があり、記憶密度の向上にはあまり適していない。その代わりに劣化はまったくと言って良いほど生じない。ほぼ無限サイクルの書き換えと、20年間と長いデータ保持期間を保証する。

Everspin Technologiesが開発してきたMRAMの技術世代。左から第1世代、第2世代、第3世代である。右端は第3世代の磁気トンネル接合(MTJ)の構造。上下電極層を除くと、11層とかなり多くの極薄層で構成される。出典:FMS 2020の講演「Technology Trend:NAND & Emerging Memory」の配布資料(クリックで拡大)

 第2世代では、スピントルク注入によってMTJの磁界を反転するスピン注入技術を導入した。「STT-MRAM」と呼ばれる。電子のスピンを利用することで、外部磁界なしでデータを書き換えられる。第1世代に比べるとメモリセルが小さくなり、高密度化と大容量化が進んだ。ただしMTJの磁化は水平方向に回転するので一定の面積を必要とする。

 第3世代では、スピン注入技術でMTJの磁化方向を垂直方向に転換した。磁化の回転に要する面積が大幅に小さくなり、高密度化が著しく進んだ。この方式のメモリは「pSTT-MRAM」と呼ばれる。「p」は「perpendicular(垂直)」の略である。区別のために第2世代は「iSTT-MRAM」と呼ばれるようになった。「i」は「in-plane(面内)」の略である。

 現在のところ、「pSTT-MRAM」技術が製品化されている最も高密度かつ大容量のMRAM技術となっている。Everspinは、28/22nmで製造した記憶容量が1GビットのpSTT-MRAMを量産中だ。

次回に続く

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