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半導体好況はいつまで続くのか大山聡の業界スコープ(43)(2/2 ページ)

» 2021年07月09日 11時30分 公開
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メモリは40%前後の成長か

 そしてメモリ市場。WSTSは2021年の成長率を同31.7%増と予測しているが、2021年5月までの実績では同18.6%増。WSTSにしては思い切った予測を立てたものである。もう少し詳細に見ると、DRAMの2021年5月までの実績は同34.9%増だが、NAND型フラッシュメモリの実績は同1.6%減とマイナスに留まっている。しかしこのNANDフラッシュ市場が2021年4月からようやくプラス成長に転じ、今後は20〜30%増という成長ステージに入ってくれるのではないか、と筆者は期待している。またメモリ市場動向を地域別に見ると、中国市場における2021年5月までの実績は同22.6%増、用途としてはスマホやPC向けが中心。2020年末の低迷期から脱却して上昇気流に乗りかけた段階にある。そして北米市場における2021年5月までの実績は同7.7%増。用途としてはサーバ/データセンター向けが中心。2021年後半からはGAFA各社が5G(第5世代移動通信)対応の投資を活性化させる見込みであり、こちらも今後の動向に期待が持てる。

 メモリ市場全体として、2021年は40%前後の成長が十分見込めるのではないだろうか。筆者としては元々2020年のメモリ市場に対してそのような期待を寄せていたが、コロナ禍で需要が思ったように伸びなかった。しかしメモリ市場の活性化は1年後ろにシフトしただけで、ここからピークに向かって上昇するのだとすると、2022年も2021年と同様の成長率が期待できるはずだ、と期待している。

来年、2022年の成長率は? 供給過剰に陥るのはいつ?

 以上、それぞれの製品別に現状の動向と今後の見通しを述べてみた。筆者の期待値はWSTSの予測値をことごとく上回っている。2021年の世界半導体市場規模は前年比20%をはるかに超える伸びが期待できるのではないか、と考えている。予測の振れ幅が最も大きいのはメモリ市場だが、これが40%以上伸びてくれれば、半導体市場全体としては30%前後の成長もあり得るだろう。しかし筆者が最も注目しているのは2021年ではなく、2022年の伸び率である。

 半導体市場が活性化しているときには、当然のように設備投資も積極的に行われている。事実、半導体製造装置市場も極めて好調に推移しており、SEMIによるとウエハー処理装置の2021年5月までの出荷実績額は前年比で約1.5倍に達しているという。半導体市場も前年比23.0%増と好調だが、これを上回る勢いだ。業界内部では「投資が過熱しすぎだ。2022年以降の需給バランスが心配だ」という声も聞かれるようだ。確かに、半導体市場の伸び以上に装置の出荷が伸びれば、過去のシリコンサイクルが証明してくれているように、半導体市場は供給過剰になって市況は暗転する。それは間違いないが、それがいつになるのか、2022年なのか、2023年以降なのか。

 ウエハー処理装置需要はメモリメーカーとファウンドリーに集中する傾向が強く、Intelを例外にすれば、メモリ以外のIDM(垂直統合型メーカー)はファウンドリーへの製造委託比率を高めているのが実態である。昨今ではこの実態を問題視する意見も多く聞かれるようになったが、ファウンドリー各社の現状をみる限り、どの企業もフル稼働状態で、2021年内は新規の受注をすべて断らざるを得ない状況のようだ。当然、各社とも設備投資を行って生産能力を増強中だが、それ以上に需要が強く、顧客に対して供給契約の長期化が常態化しつつあるという。その結果、「2021年よりも2022年の方がさらにひっ迫する」「設備投資計画を前倒ししたくても装置メーカーの納期も長期化しているので十分な対応ができない」という声が聞かれるのだ。

 また、アナログICや一部のディスクリート製品についても300mmウエハーでの量産が増えつつあり、200mmウエハーからの切り替えにも多くの人手が割かれている。特に供給不足が懸念されている分野において300mmウエハーへのシフトが重要視されており「シフト作業が遅れれば供給不足に拍車がかかるのではないか」という不安が余計な混乱を招く恐れもある。

2022年内は半導体市況も好調が持続するだろう

 半導体の需要を左右する今後のマクロ経済動向、各社の設備投資動向、300mmウエハーへの生産シフトなど、半導体の市場予測にはさまざまな要因を考慮する必要がある。だが、昨今の半導体業界のサプライチェーンの混乱振りを含めて考えれば、現在生じている半導体不足の状況は最低でも今から1年は継続する可能性が高く「2022年内は半導体市況も好調が持続するだろう」と筆者は予測している。仮に2021年の伸び率が30%前後に達するのであれば、2022年も20%を超える伸びが期待できるのではないだろうか。ただしそのような好景気が持続すれば、その後にやってくるのはサイクルの下降だ。今からその心配をするのは時期尚早だが、シリコンサイクルの宿命から逃れることはできないことだけは、肝に銘じておきたい。

筆者プロフィール

大山 聡(おおやま さとる)グロスバーグ合同会社 代表

 慶應義塾大学大学院にて管理工学を専攻し、工学修士号を取得。1985年に東京エレクトロン入社。セールスエンジニアを歴任し、1992年にデータクエスト(現ガートナー)に入社、半導体産業分析部でシニア・インダストリ・アナリストを歴任。

 1996年にBZW証券(現バークレイズ証券)に入社、証券アナリストとして日立製作所、東芝、三菱電機、NEC、富士通、ニコン、アドバンテスト、東京エレクトロン、ソニー、パナソニック、シャープ、三洋電機などの調査・分析を担当。1997年にABNアムロ証券に入社、2001年にはリーマンブラザーズ証券に入社、やはり証券アナリストとして上述企業の調査・分析を継続。1999年、2000年には産業エレクトロニクス部門の日経アナリストランキング4位にランクされた。2004年に富士通に入社、電子デバイス部門・経営戦略室・主席部長として、半導体部門の分社化などに関与した。

 2010年にアイサプライ(現Omdia)に入社、半導体および二次電池の調査・分析を担当した。

 2017年に調査およびコンサルティングを主務とするグロスバーグ合同会社を設立、現在に至る。


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