情報通信研究機構(NICT)は、産業技術総合研究所(産総研)や名古屋大学と共同で、シリコン基板を用いた窒化物超伝導量子ビットを開発したと発表した。従来に比べコヒーレンス時間を大幅に改善した。
情報通信研究機構(NICT)は2021年9月、産業技術総合研究所(産総研)や名古屋大学と共同で、シリコン(Si)基板を用いた窒化物超伝導量子ビットを開発したと発表した。従来に比べコヒーレンス時間を大幅に改善した。大規模量子コンピュータや量子ノードへの応用が期待される。
超伝導量子ビット材料としてこれまでは、アルミニウム(Al)とアルミニウム酸化膜(AlOx)を用いるのがほとんどであった。この場合、絶縁層として用いる非晶質酸化アルミニウムがノイズ源として課題になっていたという。
そこでNICTは、超伝導転移温度が16K(−257℃)の窒化ニオブ(NbN)と、エピタキシャル成長法で結晶化された窒化アルミニウム(AlN)絶縁膜に着目した。そして電極材料にNbNを、ジョセフソン接合の絶縁層にAlNをそれぞれ採用した、全窒化物のNbN/AlN/NbN接合を用いる超伝導量子ビットの開発に取り組んできた。また、窒化チタン(TiN)をバッファ層として用い、Si基板上にNbN/AlN/NbNエピタキシャル接合を行うことにも成功していた。
今回はこれらの技術を用いて量子ビット回路を設計、作製し評価を行った。実験に用いた基本回路は、量子ビットがマイクロ波共振器と結合した構造で、Si基板上にエピタキシャル成長させた窒化物超伝導体で作製した。
左上はマイクロ波共振器と量子ビットの概念図。右上は窒化物超伝導量子ビット回路の光学顕微鏡写真。左下は窒化物超伝導量子ビット(一部)の電子顕微鏡写真と素子の断面図。右下はエピタキシャル成長させた窒化物ジョセフソン接合の透過型電子顕微鏡写真 出所:NICT他実験では、熱揺らぎが小さい10mKという極低温の環境で、量子ビットと弱く結合した共振器のマイクロ波伝送特性を測定した。この結果、コヒーレンス時間の指標となるエネルギー緩和時間(T1)は18マイクロ秒、位相緩和時間(T2)は23マイクロ秒であった。100回測定した平均値では、T1が16マイクロ秒、T2が22マイクロ秒となった。この値は酸化マグネシウム(MgO)基板上の窒化物超伝導量子ビットに比べ、T1が約32倍、T2が約44倍に相当するという。
NICTらは今後、「コヒーレンス時間のさらなる延伸」や「大規模集積化に向けた素子特性の均一性向上」を目指し、回路構造や作製プロセスの最適化に取り組む計画である。
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